Roots --あたしが私に還るとき
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「まずはコレね。よく読んで」
示されたB4サイズのコピー様式に目を落とす。
最上段に在宅テレホンオペレーター契約書、とあるその書類。
左半分には細かな文字で様々な決まりゴトが記載されているようだった。
右半分は、住所やなんかの記入欄。
あたしはその書類を一字一句逃さず読み取って行った。
詳しい内容は思い出せない。
ただそれを読んで分かったのは、Dが事前に説明したとおりの仕事内容であることと、その事業そのものには何ら違法性はないということ。
契約書の形式も文体も至極まともなもので、特に不審な点は見つからなかった。
そうしている間にも、仙崎の視線を感じて居心地が悪かったのだけを覚えている。
「何か質問あれば、遠慮なく訊いて」
煙草に火を点け、煙を吐きながら仙崎が云った。
「いえ、別に遠慮は…」
「こんな場所だからね、訊きづらいだろうけど。詳しくは2枚目を見ればわかると思うよ」
2枚目は両面刷りのマニュアルになっていた。
いわゆるツーショット業務、伝言ダイヤル業務の2種類があるようだ。
説明は図解も交えて誰の目にも判りやすく、各種のFAQまで添えてある。
顧客との直接接触を禁じること。
売春・ネズミ講・物品売買目的の利用を禁じること。
事務所本体に何かがあっても、登録情報が不正流用されたり流出はしないということ。
「そこに書いてある通り、君には何のリスクもない」
仙崎は云った。
「やればやるだけお金が入る。やらなければ一賎もない。それだけだよ」
そういう甘い言葉が聞きたかったのではないが、きちんとホチキスで留められたその書類はあたしを安心させるに充分なものだった。
警戒が緩むのを見計らったかのように、仙崎は革製ジャケットの内ポケットからボールペンを取り出してあたしの目線の先に置く。
「やってくれるね?」
あたしは微かに頷き、ペンを取った。
つまらないことに巻き込まれなければそれでいい。
このことさえ済めば、Dにもこれ以上あたしを振り回さないで、と云えるだろう。
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