Roots --あたしが私に還るとき

みぅ

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カオス・ストーリー23
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数十万規模の人口を擁するこの街の、最も栄えた駅前界隈は日暮れと共に成りを一変させていた。

怪しげな色彩を放つ電飾看板が道を狭しと存在を主張し、子供連れの主婦やお年寄りの姿は影を潜める。
違法駐輪の自転車達に道は狭められ、歩くにもちょっとしたコツがいる。

ざわめく人々の精気が目に見えないウイルスみたいに空に漂っている。
独特の、匂い。


Dが指図するままありきたりな商用ビルテナントの居酒屋チェーンを目指し、二人の男を引き連れ歩きながら、あたしは焦りを覚え始めていた。


今にも澤村からの電話がかかってくるのではないか。


昨晩、彼に宛てたショートメールには正に今晩電話しますと打ったのだ。
こちらはもう半月以上も音信不通にしているのだから、痺れを切らせてあちらから電話をして来ることも想像できる。



澤村と交際を開始して以来これまでにも、こちらから連絡するまで待っていて欲しいと頼んでもおとなしく待っていてくれたことはほとんどなかった。
律義な男ではあったが、男女の仲になってからの彼からは元来の余裕や冷静さといった美点が徐々に失われていた。

離れている間に積み重ねた猜疑心や執着心、独占欲が幾重にもあたしにのしかかる。

『アイシテル』の台詞を隠れ蓑に身体ばかりか心にまで枷を巻き付ける、それが澤村の性であった。



脇に挟むように肩からかけたハーフショルダーを歩きながら探り、オンにしていた携帯の電源を切る。



それは、逃げ、だったのかもしれない。

安易な行動だった。



電源の切れた携帯が、同時にあたしの内面に隠されたスイッチをも切り替えたことにまだ気づいていなかった。



既に始まっていた侵蝕が加速してゆく。


あたしを侵蝕したものの正体、
『孤独と飢え』。


気づかぬまま。
居酒屋での“歓迎会”が始められていた。






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