Roots --あたしが私に還るとき
Roots --あたしが私に還るとき
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Dの前では怖がっている自分を悟られたくない、と思った。
「…ありがとうございます」
咄嗟に笑みを繕い、男の人差し指と中指に挟まれた紙幣を丁寧に抜き取って入り口近くの注文カウンターへ向かう。
--何、あの男。
お年玉みたく折り畳まれた千円札。
少し不潔なように感じて背筋を悪寒が走る。
会計の間にも動悸が収まらない。
コーヒーだけでは体裁が悪いのでドーナツを一つ購入し、席に戻った。
「座れば」
観念し、Dの横に腰掛けながらこっそり深い吐息をする。
心を鎮めるためには深く長く息を吐くことだ。
そうすれば自然に身体が酸素を求めて肺を膨らませる。
背筋が伸びる。
恐れも和らぐ。
「…みぅ。この人、仙崎(せんざき)さん。俺の先輩てか、兄貴分」
「はじめまして」
挨拶を口にしてなお落ち着きを取り戻したあたしは、改めて差し向かいの男を素早く観察した。
仙崎、と紹介されたその男。
歳の頃は30代後半から40代始めくらいか。
身長は高いようだが、身体つきは小柄な柔道家を思わせる。
穏やかに微笑む眼に温度がなく、傍目にはどこにでもいる人間のように見えるが堅気でないことはあたしにはすぐにわかった。
Dによく似た鋭い目付き。
精悍な顔立ちにそぐわぬ膚の白さに微かな嫌悪を覚えた。
その尖った顎の下、テーブルの上で組み合わされたずんぐりとした十本指を眺め遣る。
「みぅちゃん、だね」
視界の上端で男が口を開いた。
「いつもDから話きいてる。食べていいよ、楽にして」
云われた通りドーナツを手に取り、ちらとDの横顔を見た。
素知らぬ顔で煙草を吸っている。
あたしのどんな話を、この男にしているというのだ?
「いただきます。あの…」
仙崎は隣の座席に置いた大きな鞄を探っていた。
「ん?」
「こういう面接、いつもなさってるんですか」
数枚の書類を取り出し、空いた方の手で器用にテーブルを片しながら仙崎は軽く笑った。
目は合わせない。
「いつもじゃない。君はDの紹介だしさ。コイツの親父さんには世話になってるからね、色々と」
「はぁ」
釈然としない。
そんな疑念を知ってか、仙崎はあたしが二の句を継がぬうちに書類を開いた。
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