Roots --あたしが私に還るとき
Roots --あたしが私に還るとき
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翌日、午後。
携帯番号がショートメールに入り、かけた電話口にはDが出た。
いつものこと。
「先輩の車でもう近くまで来てんだけど。今からすぐに出てこいよ」
睡眠不足でふやけた意識の中に転がり込む、凹凸のない声。
「近くって」
「T駅前。どのくらいで来れる?」
T駅は最寄り駅だ。
あたしは時計を見た。
16時過ぎ。
夕方というにはまだ早い。
そろそろ出掛ける準備を始めようとしていたところだったが、気が進まないことも手伝ってぐずぐずしていたのだ。
まだ着替えすら済ませていなかったあたしは閉口した。
「…30分以上はかかる」
「ウッソ?しょうがねぇな、どっか入って待つか。店決まったら電話するから」
「や、どこかってちょっと…」
ブツリと切られる電話。
--勝手な男。
呆れ返り、そしてまたもや断れないあたしが取り残される。
ずしりと重くなるみぞおちあたりの感触。
あたし、Dの言いなりだ。
のろのろと立ち上がる。
鼻先で、甘い蜜の香を嗅いだような気がした。
春が来る。
もうすぐ、あたしは独りになれる。
Dの呪縛からも、澤村の籠からも逃げ出してみせる。
そう自分に言い聞かせては萎えそうな動機を鼓舞し、身支度を急いだ。
◆
Dの指定した店に到着した時にはもう17時をまわっていた。
どこの街の駅前にもだいたい1店舗はあるであろうドーナツ店。
夕方に差し掛かっても、土曜日の店内は若いカップルや女の子達の活気が溢れていた。
そんな店内の空気に全くそぐわない二人組の客を見つけ、あたしは近づいて行った。
「あ、やっと来た」
Dが先にこちらに気付き軽く手を上げる。
「遅くなりました」
こちらを振り返った見知らぬ男に会釈しながらDの隣に立った。
「なんか頼めば。俺らはもう、コーヒーおかわりしすぎ」
Dが云うと、
「なんでも頼んでおいで。ホラ。お釣りはいいから」
用意していたように、男が千円札をあたしに差し向けた。
「いえ、これは…」
断ろうとしたが、
「交通費がわりだからさ」
口調だけ優しく、あたしの全身をねめつけるその視線が男への恐怖心をあたしに刷り込んでいくようだ。
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