Roots --あたしが私に還るとき
Roots --あたしが私に還るとき
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その夜、あたしは殆ど眠らなかった。
部屋の窓を北風が強く揺らす。
風に乗りゴトゴトと低く微かに聞こえてくる電車の走行音。
この街を通る鉄道もそろそろ終電車の時間だろう。
澤村にショートメールを打つ。
意を決したわけではない。
ただ、あたしの方が何か行動に移さなければいつまでも母に嘘を託して怯え続けることになるのは明確だった。
『ケイタイシュウリシマシタ アスノヨルTELシマス』
電話ひとつで澤村に別れを納得させる自信は全くなかったが、まずはその意志を伝える必要がある。
とにかく独りにならなくては。
この虫籠から抜け出す。独りに戻る。
その為に澤村と別れなければいけない。
このまま割り切って愛のない情交をするには、澤村はあたしを縛りすぎるのだ。
澤村の激しい独占欲はあたしの就職先に関する干渉にまで及び、結局あたしが入社を決めた職場にも彼は苦言を呈した。
内定が決まった昨年末のこと。
冬期休暇に入り、帰郷していた澤村に内定を告げた。
「保険の営業か…もっと穏やかな職種の方がみぅには向いてる気がするけどな」
スポーツクラブのバイトで稼いだお金でついに購入したという中古の黒いインテグラ。
ハンドルから左の手を伸ばし、あたしの膝にやわやわと触れながら。
「もう少し他の会社当たってみたら?」
「営業といっても、一般家庭じゃなくて企業対象のルートセールスだっていうし。大丈夫よ」
「でも、沢山の人間を相手にするんだろ?」
「それはそうだけど」
「心配だ」
信号が赤になり、車が一時停止する。
「心配…?」
またか、とあたしは思う。
「心配だよ。営業先の会社にどんな奴がいるか判らないだろ。変な虫がついてこないとも限らない」
澤村はあたしを言葉で縛る。
いつも。
そして身体をも。
「駄目だ。もう」
あたしの水分に浸りながら澤村はベッドの上で悶えた。
「お前のカラダは、駄目だ」
澤村がそう云うなら駄目なんだろう。
本当に。
「俺だけのだ」
そう云ってこの日の澤村は果てた。
今、あたしの駄目なカラダはこの籠から逃れたがっている。
そのことをあたしは澤村に伝えるべきだったのだ--少なくとも、もっと早くに。
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