Roots --あたしが私に還るとき
Roots --あたしが私に還るとき
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だらし無い男とのだらし無い情事を終え、帰宅ラッシュ前の電車とバスを乗り継ぎ帰りを急ぐ。
日々少しずつ高くなる冬の終わりの夕暮れの陽。
斜めに傾く西日に向かい、バス停から真っ直ぐ続く歩道を歩く。
内腿が引き攣り膝が上がらず、全身が怠い。
そしてその角を曲がり、家の前の路地へと歩を進める時、あたしはいつも怯えていた。
そこに、澤村が立ってあたしを待ち構えているのではないかと。
あの、クリスマスイヴの夕刻そのままに。
しかし実家へ戻る引越し準備や体育学部の追いコンなどで、まともな講義の時より多忙な澤村。
3月になるまでこちらへ帰らないコトは知っていた。
怖れていたことは、同時に願望だったのかも知れない。
あの日、澤村と歩いた道。
あの日々--澤村と。
今日は、独りで歩く道。
誰も待ってなどいない道を重い足取りで歩く。
Dではなく、あたしの中の慾の渦でもなく、罪の闇でもない何かが、新たにあたしを侵蝕し始めていた。
「また電話あったわよ、みぅちゃん」
リビングの扉を開けたあたしに詰め寄る母。
その憂い顔はいつものことだ。
「…ただいま」
あたしはコートも脱がずにダイニングに進み、母の視線に背を向けてテーブルに座る。
「澤村さん、とにかく電話欲しいって。すごく心配してたわよ。こう毎日嘘をつかされちゃ、お母さんだってしんどい」
心底シンドイ、といった声音が背中を刺す。
「あなた早く携帯電話“修理”しちゃいなさいよ」
修理、にアクセントをつけて母は言い付ける。
携帯電話がコワレている、という嘘をあたしは母に託していた。
そしてDからのショートメールが入ると、あたしはいつも『トモダチに会ってくる』と言い残して外出していたのだ。
確かにDはトモダチ。
これだけは嘘ではない。
「わかってる。ゴメンなさい」
今朝自分で淹れたままの冷めきったお茶を湯呑みから喉に流し、飲み下す。
ごくりと喉元が鳴った。
「近いうちに、修理するから」
飲み込んだ冷たい液体に衝かれるように動悸が巻き起こる。
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