Roots --あたしが私に還るとき
Roots --あたしが私に還るとき
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その春、あたしは短期大学を、澤村は大学を卒業し、二人ともに就業する職場もこの地元で決まっていた。
大学の四年間を過ごしたアパートを引き払い実家へ帰ってくる澤村。
この数年、二人を隔て続けたあの距離はなくなる。
その事実があたしを駆り立てていた。
時は二月。
春の気配など微塵も見出だせない千切れる寒さの最奥にありながら、着実に歩を進める季節に皆が無意識に焦りを覚えるころ。
あたしにしてもそれは例外ではなかった。
急がなくては。
此処にいてはいけない。
本当に、捕まってしまう。
短大卒業を前にショットバーを辞め、代わりにいわゆる“ダイヤルQ2”のアルバイトを始めたのはこの頃だ。
それもこの日のDの入れ知恵によるものだった。
「ココ。俺のツレがやってる店なんだけど。ちょっとお前手伝ってみてくんね?」
その日手渡されたポケットティッシュ。
その側面には、小さな文字で女性スタッフ募集云々…とプリントされていた。
「電話ノリがイイんだよ、お前の声。たまにソソラれるっつーかね。向いてる、絶対」
Dはつらつらとうそぶく。
「スタッフっつっても、ほら。自宅でできるサクラだから。ココにかけてくる男の話し相手するだけ」
毒々しくセンスのないデザインのポケットティッシュ。
表面に記された0990で始まる電番を指し示しながらDは続ける。
「上手く客をあしらいさえしてりゃ、会わずにテレホンセックスしてるだけでかなり稼げるし。月10万とかさ。これなら春から会社入っても暇みつけて続けられるじゃん?」
「…そんなコト頼みたくて今日、あたしを呼んだわけ?」
あたしは呆れて云った。
「それだけじゃないって。ヤリたかったしさ。はは」
「はは、じゃないわよ」
Dと話す時にはどうしてもぞんざいな調子になる。
彼の後ろにある“外道”的な空気が本心では怖くて、無意識にも虚勢を張っていたのかもしれない。
「そんなウマイハナシ、信じらんない。お断り」
普段何事もせせら笑うように喋るDが、この時とばかり妙に熱苦しい口調になっていることが気持ち悪くて、その場で一旦力いっぱい拒絶した。
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