Roots --あたしが私に還るとき
Roots --あたしが私に還るとき
みぅ


6ページ目

週末になるとあたしの中に渦を巻く、ある種のエネルギー。
それは溢れ、流れ出し、彼の内面にも徐々に波及していることに気付いていたけれど、そ
れでも止めることはできなかった。

夏に始まった二人だけの撮影。他の日曜学校の生徒達から子供特有の羨望を受けながら。
季節は進み、秋が深まろうとしていた。

◆

そしてその日、撮影後誰もいない夕方前の礼拝堂に帰ってきたところで、あたしはその渦
の勢いにまかせて自分の感情を彼に向かってついにぶつけてしまったのだ。
具体的に『抱いて欲しい』とかではないが、それに近いことは云ったと思う。

彼は驚いたようなフリをしていた。しかし呆気ないほどに簡単にあたしを抱き寄せた。
子供と思う故だろうか。無意識にもあたしの渦を承知していたからだろうか。今となって
はわからない。
エンジ色の絨毯に座って壁にもたれ両足を投げ出していた彼に跨がるような体勢で、あた
しは大人しく彼の顎の下にすっぽり滑り込んだ。

「無理なんだ」と彼は云った。とにかく無理なんだ、と。
「みぅちゃんと僕は歳が違い過ぎる。来月僕は25になる。倍も違う。無理なんだよ」
そのうち、先生はほとんど泣き声になっていった。
「ゴメンなぁ」
痛いほどあたしの頭を自分の胸に押しつけて耳許で云う。くすぐったさにゾクッとする。
温かい吐息を感じる。髪を撫でられたりもする。
何が「無理」なのかがその時のあたしは理解できなかった。
だって、あんなに焦がれた先生の胸や腕はここにあるじゃない。耳にキスするみたいに
「無理だ」と云われたって、あの渦は増大してゆくばかりなのに。

「無理だ、無理だよ」
そう云いながら、しかしその片方の手はあたしの背中を降りてゆき、スカートの裾を所在
なげに摘んで下へ引っ張りはじめた。
グレーベースに紅いラインが入ったタータンチェックのプリーツミニ。柄まで覚えている
のは、彼の胸に額を押し当てたまま俯いて、彼が何をしたいのかを探り当てようとしてい
たから。
随分ながい時間、そうして抱き合っていた。沈黙を破ったのはあたしのほうだった。
「いいよ…せんせい。すきだから」
なにが“いい”のか曖昧ながらもそう呟いた、と思う。彼を苦しめる“無理”を許そう。
そう思った。
←前 次→
最新
採点
戻る トップへ
総合テキスト投稿&無料HP作成
(C)Chaos-File.jp