Roots --あたしが私に還るとき
Roots --あたしが私に還るとき
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「俺、自信ない。みぅちゃんが、俺の何処が良くて好きなんて言うのか見当つかねぇし」
掴まれた腕が痛い。
痕がつきそうなほど。きつく、きつく。
「俺ね、ホントに最低の嘘つきなんだよ」
底無し井戸みたいな邑瀬の眼。
暗く、何の光も宿さない眼。
身震いするような心地がしたが、それでもあたしはその眼から視線を外すコトが出来ずにいた。
「好き、に理由なんて必要なんですか?」
あたしは自分で驚く程に声が震えていた。
「邑瀬さん」
掴まれた腕の痛みにめげそうになりながら、瞬きもできないままその眼を覗き続ける。
あたしの投げる言葉が、底無しの水面に波紋を呼び起こしたのがわかった。
「邑瀬さんじゃなきゃ駄目なんです」
邑瀬の表情。
崩落寸前の雪庇のように、微かに軋むのをあたしは見逃さなかった。
「嘘でもなんでも。一度でいいですから。責任も、何も…求めたりしませんから」
冷え切った身体に、増幅されてゆく五感。
空気の匂いが、変わったような気がした刹那。
「あ!」
刃物で指先を切った時、人は必ずそういう声を出すのを貴方は知っているだろうか?
自分のせい。
不注意で無用心だった自らの過ち。
なのに人の本能は、その瞬間に声を出して痛みを逃がそうとするのだ。
冷たい部屋の隅、持ち主に置き去りにされた小さなベッドの上。
あたしは、邑瀬の堅い身体にきつく押さえ込まれていた。
「今なら間に合う」
邑瀬が云った。
その眼に、いつの間にか正体のない光が灯っていた。
「まだ間に合うから。拒否ってくんないか?」
「できません」
「俺じゃなくても、もっと他に優しいヤツいっぱいいるよ。みぅちゃん、カレシ以外の男も知ってるんだろ?」
「優しくしないでください。他のひとじゃ駄目なんです。あたしを…。お願い」
もうあた
しはほとんど泣いていた。
「どうしよう」
「どうにでも」
どうぞ、一思いに殺(や)ってください。
全ての男性が持つ、硬くしなやかなナイフ。
隠されたあたしの傷をえぐり出すコトが出来るのは、あたしが心を捧げるこのひとの切っ先だけだ。
「このベッド」
あたしの首筋におでこを埋めて、呻くように邑瀬が呟いた。
「この…ベッド?」
邑瀬は烈しくあたしの上衣をまさぐり、きぬ擦れの音にその声が隠れてしまいそうになっていた。
『このベッドで彼女を抱いたの?』
この部屋が、邑瀬の愛した女性のものだということはもうナントナク以上にわかっていた。
が、そんなコト確かめようもないし今は知りたくもない。
あたしは追及するのをやめてしまった。
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