Roots --あたしが私に還るとき
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みぅ


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振動を続ける、黒く長細いプラスチック機器。
ただぼんやりと握り締める。

「出なくていいの?」

邑瀬が訊く。

「いいんです」

「カレシなんだろ?」

「いいんですよ」

少し語気が荒くなったかもしれない。

そのタイミングを待っていたかのように振動が止まった携帯。
あたしは結局電話には出なかった。
出られなかった。

たぶん、澤村だろう。

この非常時によく回線が繋がったものだ。
澤村の思念が力ずくであたしと繋がろうとしているような錯覚を覚えて、少し怖くなった。

電話回線の混乱はまだ続いているし、もう暫くは鳴ることもないだろう。


「邑瀬さん、あたし…」

「俺さぁ…」

二人、殆ど同時に短い沈黙を止めた。

あたしは発言の順番を譲って、彼の顔を見た。

そこにあったのは、先程垣間見たあの表情。
なんとも言い難い不穏な陰りが浚に色濃く彼の眼を曇らせていた。



彼は云った。


「俺ねぇ。好きなヒトが、死んじゃった」



あ。云われてしまった。


あたしは頭をガン、と殴られたような狼狽を覚え、知らず眼をつぶった。
動悸がけたたましく鳴り響き、ぐわんぐわん喉に競り上がってくる。

涙。
寸でのところで、堪えた。
今はまだ、泣く時じゃあない。
なんとなくそう思った。


あたしの反応を待たず、邑瀬はまるで容赦無く続けた。

「付き合いはそんなに長くなかったけど結婚も考えてた。国籍が違うってのがネックでなかなか話が切り出せなかったんだけどさ」

何か云うか、質問をしたかった。
でも今、何かを口にしてしまうと止められない、そんな感じがしてあたしは黙っていた。

それは邑瀬も同じだったのだろう。

とめどない感情。
溢れ出る言葉。




「正直、今さえ楽しめればイイって思い始めてたんだよ。みぅちゃんと知り合ったあのコンパだって、そういう自分のゴチャついた気持ちがイヤで…逃げだったんだなぁ。今思うと」

携帯を両手に隠すようにして、あたしは冷たい床にヘタリと座り込んだままベッドの下の空間を無意識に見つめていた。

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