Roots --あたしが私に還るとき
Roots --あたしが私に還るとき
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「あぁ、そうだ。2時から給水車が来てるんだ。近所だからちょっと手伝って」
ユニットバスから出てきた邑瀬はそう云って、自分は大きなポリバケツを抱え上げ、私には灯油用ポリタンクを持たせて給水場所へ連れて行った。
「毎日、これ一人でやってるの?」
「これがないと、ウンコもできねぇから」
と邑瀬は笑った。
あたしは返事に困り、曖昧に笑って別な質問をする。
「食事はどうしてるの?」
「近くの公園でボランティアが炊き出しやってるから、もらいに行ってる。でもこうも寒いと身体動かないし、腹もあんまり減らないんだよな」
確かにそうかも。
その刹那、チラッと盗み見た邑瀬の横顔に、言いようのない窶れ(やつれ)を見たような気がしてあたしは反射的に目を逸らした。
水が満たされて重いポリバケツの縁を私は両手で必死に持ち、反対側は邑瀬が軽々と片手で支えている。
彼のもう片方の手にはさっき私が持たされたポリタンク。これも満水。
指に伝わる重さと冷たい空気に、関節がこわばる。
停電の為にエレベーターが動かないので、マンションの4階までその重い水を持って階段を登りきり、なにもない部屋に帰って来た。
この季節、東向きの部屋は真昼でも薄暗く寒い。
鈍い振動音が、その部屋に戻ってきたあたしを聞こえよがしに呼んでいた。
携帯。澤村だ。
いつもなら、動揺はなかったはずだ。
実際それまでにも、邑瀬と会っている時に澤村からの電話を受けたコトだってある。
けれど、この日だけは違った。
あたしは決心していた。
邑瀬に自分の本意を伝え、同時に彼の本意をも引き出すこと。
必要なら身体の関係をけしかける企みもあった。
あたしは、自分の気持ちを伝えるだけで納得できるほどに純粋ではなく、もはや彼と寝るだけで気が済むほど汚れてもいなかった。
真剣だったと思う。
だけれど、報われない思慕を抱え続けて行けるほどの暇(いとま)はなかった。
何故だかあたしは焦っていた。
もう、今日を越えてしまえば邑瀬には会えなくなるという確かな予感があたしを蝕んでいたから--。
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