Roots --あたしが私に還るとき
Roots --あたしが私に還るとき
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抑えようとしても抑え切れない奔流みたいに、あたしは初めて心が奪われるということを知った。
その頃ちょうど夏休みだったので澤村が帰省してきていて、逢えばセックス。
ホテル代は割り勘だったからバイトのお給料もみるみる無くなって。
でも、澤村との交わりは急速にその悦楽の輝きを失い、まるであたしには苦行のように魅力のないものに変化していた。
「…あーあ、もう…濡れ過ぎ。入れてほしいの?」
「やっ…あぁ」
「見てみ、コレ」
秘裂から抜き取った指。
濡れてふやけた長い指。
「指一本でこんななってどうするの?絶好調だなぁ。…入れてほしいんならおねだりしなきゃ。ほら」
再度抜き差しをしながらあたしを追い込んでくる指。
右と右、左と左の手首足首をそれぞれ纏めて拘束するのが澤村のお気に入りだ。
脚を閉じても責めは続く。
「やぁっ…だ、め…もうダメぇぇッ」
「ダメ、じゃないだろ。おねだりは?」
「あーっ、ゆるし、て…あぁぁっ」
逃れられない快感。
ズルズル。
ぐちゃぐちゃ。
「ひ…、ぃれ、てっ…いれてくださぁ…い」
快感がなかったのではない。
身体は馴れていたから、お互い直ぐに頂点に達することはできた。
でも、それだけだった。
愛の交歓ではなく、性行為。
ほとんど、ただの癖。
惰性だ。
もとよりそれが当然だったのかもしれない。
澤村は薄々それに気付いていただろう。
あたしの心が冷えれば冷えただけ、交わる回数が増えてゆく気がした。
そんな澤村をあたしは哀しんだ。
いつの間にか夏は終わった。
あたしは邑瀬に抱かれたかった。
自らの性的嗜好や精神も受け入れてもらえなくて構わない。
ただ、抱かれたかった。
彼が望んでくれるなら。
焦れるばかりの日々。
自分を騙し続けている、そのコトに疲れ始めていた。
そして--あの、震災が起きたのだ。
◆
少し頭を整理したい。
何故あたしはあの日躊躇いも無く、被災した瓦礫の街をわざわざ訪れたか。
あたしの通う短大は、被災地の中にあった。
そうだ、あの日あたしは前期で点数が足りなかった必須科目の追試を、受けに行ったんだった。
担当教授に電話で御指名を受け、わざわざと。
『英作文』。
つまらない科目だった。
毎週、毎回授業の開始時に行われる小テストは、週ごとに20あまりの構文をまる暗記させられた中の5つだけを問うもの。
英文の完全暗記だ。
しかも、意訳。
そんな学習に意味があるのか。
十年近く経った今、全部で600もあった構文のうちただ一つとして覚えているものはない。
まぁとにかく、その追試を受けに行った。
よくよく碌でもない話だ。
震災のために卒業式までは完全休講が決まっていたが、学科の看板科目である以上、劣等学生には無理矢理にも追試を課すべきだったのだろう。
あたしはその科目では劣等学生だったのだ。
◆
忘れもしない。
震災発生から13日目。
その日、あたしは件の追試験を終えて幹線道路へ下り臨時に作られたバス停にいた。
鉄道網は壊滅し、代わりに運行していた臨時バス。
なかなか来ない、鉄道代行バス。
そこであたしが待っていたのはバスでもタクシーでもなかった。
「あっ、ホントに来てる」
朗らかな笑いを含んだ、男の声。
身体の芯から沸き立つような喜びが、背中を駆け登った。
振り返るとそこに、邑瀬がいた。
くたびれたルコックのジャージの上下を着て、ニコニコ笑う邑瀬が。
そこに、いた。
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