Roots --あたしが私に還るとき
Roots --あたしが私に還るとき
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澤村は相変わらず、時々あたしの前に現れたがその態度に変化は無かった。
あの日、『待つ』と云った言葉は本当だったらしい。
会話の中でも敢えてそのコトには触れようとしなかった。
律義なのだ。
「春からは離れてしまうけれど、気持ちは変わらないよ。それには自信がある。だからもしも僕が必要になったら、その時はいつでも連絡をして」
--ただ一度、こんな事を云った以外は。
澤村は付属の大学、体育学部への進学が確定していたのだ。
そこは、新幹線が必要なほど、この地から遠く離れた場所だった。
駆け足で過ぎ去ってゆく日々。
卒業式が終わり、修了式も済んだ。
春休み。
始業式。
セオリィどおりに迎える、新しい季節…。
◆
ヒロアキを手放したことよりも、澤村の不在による喪失感の方がより強くあたしの渦を刺激していた。
新しいクラスにどうにも馴染めず、退屈な授業中にはもっぱら読書ばかり。
部活動も休みがちになり、その代わりに自宅近くの花屋でアルバイトを始めた。
こんなあたしでも愛想はイイ。接客に向いているらしく、居心地も良かった。
店主には『大人びている』と云われていた。
傍目に、良くも悪くも妙に落ち着いた娘だったのではないかと思う。
ゴールデンウィークに帰郷してきた澤村に誘われ、その頃新しく出来たばかりの水族館へ行った。
大学生活は順調のようだった。
「教職課程をとっているんだ」
夕方、鉄道駅のモール街で入った蕎麦屋。店内はひどく混んでいた。
うどんを啜りつつ、飾らず話す澤村はとても誇らしげだ。
「親父がずっと教師だったからね。今は定年で教育委員会だけど。中学のときなんか校長が親父、だったりしたんだよ」
自慢げだが厭味がない。
偶然か、知ってか。
並んで歩いていると、時折肘や指先があたしのカラダに触れる。
その感触に、柔らかな質量と甘い引力を覚えてあたしはひそやかに戦慄した。
--コノヒトなら、迷い無くあたしをオトナにしてしまうかもしれない…。
食事後、澤村はあたしを真っ直ぐ家の前まで送り、また一段と爽やかに去って行った。
あたしはその時気付いた。
渦は、あたしだけじゃなくあのひとの中にもあるのではないかと。
きっとあたしより遥かに獰猛な渦が。
だとすれば、それをあれほど上手く飼い馴らしている彼のことを、もっとよく知りたい。
あたしの中に、初めて澤村への興味が湧いてきていた。
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