Roots --あたしが私に還るとき
Roots --あたしが私に還るとき
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--同じ通学路だったんだ。
でもその人がなんで、2学年下級のあたしの名前を知っているの?
訳がわからなかった。
しかしあたしはあまり彼に興味が持てなかった。
何故あたしのことを知っていたかなど、別にどうでもよいことに思えた。
同じ学校なのだし、そんなコトもあるのかな、と。
無粋なエアブレーキの音を立てて目の前に滑り込んで来たバスに乗り込む。
場の流れに呑まれて、あたしは二人掛けの座席に座った。澤村と並んで。
あたしは訊かれたことには答えたが、その時何を喋っていたか思い出せない。
車中では殆ど彼の方が話し手だった。
住んでいる場所、部活のこと、卒業後の進路、そういった内容だったと思う。
卒業に向けて部活を引退し、伸ばし始めた髪を気にする仕草が印象に残っている。
「それじゃ、あたしは此処で」
自宅の近くのバス停で下車しようとした。
「あぁ、じゃあ俺も」
立ち上がる彼に驚くあたしだったが、
「折角だから、家まで送るよ。もう暗いし」
迫る夕闇。窓に淡い藍色の街並みが映る。
断る理由は無かった。
彼は律義で誠実だった。
野球部での活躍を鼻にかけた言動が全くなかったとは言えないが、やたらに謙遜するよりその方が感じが良いこともある。
自然体で誇り高く、自分をアピールすることに長けている彼の話しぶりは新鮮だった。
バス停から自宅までのほんの数分の道程。独りに慣れていたあたしにも決して苦痛ではなかった。
「…ここで充分です。ホントにありがとうございました」
自宅の少し手前であたしは立ち止まり、礼を述べた。
「こんなコトでよかったらいつでも」
短い髪に手をやりながら眼鏡の奥の小さな目をさらに小さくして笑う澤村。
つられて笑みを返しつつ、爽やかだなぁと感心する。
こういう人は異性だけでなく同性にも人気があるはずだ。
「ねぇ、待って」
それじゃあ、と自宅に向かって歩きだそうとしたあたしを呼び止め、用意していたかのように彼は切り出した。
「クリスマスとか…何か予定入ってる?」
予想もしない言葉に、思考が麻痺する。『とか』、って何だ。
「クリスマスは家族と教会へ行くんです。ウチ、クリスチャンだから」
咄嗟にあたしの口から出た嘘。
教会へなど、もう三年以上も足を向けたことはない。
「そっか、残念」
彼は首をちょっと横に傾けるようにしてそう云うと、
「じゃ、また!」
笑顔のまま踵を返して歩み去って行った。
夕闇に溶ける濃紺のブレザージャケットの背中。
やっぱり爽やかだ。
そして興味は持てない。
しかしあたしの胸元には、いつか何処かで感じたことのあるざわめいた気分が残った。
小さな戸惑い。
これが、あたしと澤村哲平との邂逅だった。
◆
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