Roots --あたしが私に還るとき
Roots --あたしが私に還るとき
13ページ目
◆
“タラ、レバ”は無しだ。
夫が実際15歳のあたしを知っていたら、今の私は無かっただろう。
15歳のあたしは、その時焦っていた。
--はやく、はやく。
“オトナ”になりたい。ならなければ。
有り体(ありてい)に云えばセックスの相手を求めていたのだと思う。
この年頃の早熟な耳年増少女にはありがちなことかもしれない。
けれどもあたしの場合は好奇心が原動力なのではなかったし、ロマンチックな処女喪失など望んでもいなかった。
動機も期待するものも、所謂普通の女子高生とは少しばかり違ったのだ。
既にあたしの中の渦は求心力を増して、艷然(えんぜん)とそこに居座っていた。
--そんな日々の隙間で、あたしは澤村哲平と出逢ったのだ。
試行錯誤の末、隣のクラスの同級生に交際を申し込み、さっくりOKを貰ったのは高1の2学期。
しかしサッカー部員であったヒロアキは日に焼けて浅黒く屈強な体格に似合わずオクテで、数回デートをしてみたものの何も起こる気配がなく。
あたしは内心じれったかった。
一緒に下校していても家に誘われることもなく、あたしは途中の駅で降りてバスに乗り換え、そこからは一人で自宅へ帰るばかりの日々。
その日も、あたしは一人、帰りのバスを待っていた。
駅前の小規模なバスターミナル。
肌寒い初冬の夕暮れ。
「高梁(たかはし)さん」
突然背後から名前を呼ばれて、振り返る。
「…?」
そこに、あたしと同じ高校の制服を着た男子生徒が立っていた。
「はい、あの…?」
誰だっけ。
短い髪。
着崩しすぎない制服姿に、誰が見ても好感を持ちそうな端正な顔が乗っかっている。
銀縁の眼鏡をかけているけれど、文化系じゃあないことは一目でわかった。
見覚えのあるような気もするし、まるで知らない人のような気もする。
「高梁さん、よくこのバス乗ってるね」
この人、あたしの名前を知っている。
ならば同じクラス?それとも部活?
いくら忘れやすいあたしでも、さすがにそれはないだろう。
あたしは余程訝しげな表情をしていたのだろう。
「参ったな、他人に興味ないのかなぁ」
と、屈託無く笑いかけられたが、その顔に微かに落胆の色が窺えた。
ますます判らない。
「すみません、貴方は?」意を決して尋ねる。
「野球部3年、澤村とイイマス」
彼はおどけた口調で肩を竦め、にっこりと微笑した。
「…あ」
それで漸く(ようやく)あたしは思い出した。
澤村哲平、の名前を。
一回戦敗退はしたものの、あたしの通う高校は創立間もなく咋春の選抜高校野球への出場という快挙を成し遂げていた。
澤村はショートストッパーの技能と打撃両面に於いて、一部マスコミにかなり高い評価を受けてドラフトも噂されていた。
結局ドラフトはならなかったらしかったけれども、少なくとも校内ではその名前を耳にしない人間は居なかっただろう。
採点