Roots --あたしが私に還るとき
Roots --あたしが私に還るとき
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「…でさぁ。イッちゃんのアレ、このくらいだったんだよ」
由美はそう言い、優越感を含んだ表情を浮かべながら自分の手に握っていた飲みかけの缶コーヒーをそこに居た皆に見せつけた。
皆が驚嘆の声を発した。
由美が一宮先輩(イッちゃん)と交際を始めた直後。
ある日の部活終了後、女子の部室で由美は“初体験”の報告を披露していた。
イッちゃんというのは先ほど話した例の彼のことだ。
「ね、ね、やっぱ痛かった?」
誰かが尋ねた。
「んー、まぁね。でも血は出なかったんだよね」
「体操やってると出ないことよくあるって、本当だったんだ」
「えーっ、それマジ!?」
「マジマジ。あんた知らないの?」
「マジらしいよ、だって開脚とかするじゃん」
「現に、由美が実証済みだし」
「っつーか、それって由美だけじゃないの??」
「何よ、アタシがユルいって言いたいワケ?すっげぇ痛かったんだけど!」
「だって一宮先輩、缶コーヒーでしょ?処女じゃなくたって痛いの当たり前だし?」
「キャハハハ!!」
皆が口々にたたみかけ、由美も一緒に奇声を発して笑いこける。
此処でもあたしは、やはり聞き役だった。
しかしそんなことを皆が喜々として話す光景に、内心は激しく動揺していた。
--それは恥ずべき行為ではなかったということなの?
つい半年前までは、『ヤッている』というだけで不良扱いをされるはずだった。
中学の頃を思い出す。
あの娘と由美と、どれほどの違いがあるというのか。
目の前の由美は少しも恥じらわずどうってコトナイ、という顔をしている。
皆も由美を煽りたて、もっと詳しく教えてもらおうと身を乗り出して彼女に好奇の眼を向けている。
あたしは混乱した。
わかりやすく云えば、その時のあたしには、由美がとても“オトナ”に見えたのだ。
久しくその動きを見せなかった渦が、突然瞼の裏でゆらめく。
『オトナニナレバ…』
--解放されるのかもしれない。
全てが許され、上手くいくかもしれない。
恥じらわず自分自身をまるごと愛せるようになるかもしれない。
そんな妄想が、混乱した意識の中に煌々と浮かびあがった。
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