覚醒剤からの回復
私が覚せい剤をやり始めたのは昭和46年20歳の頃からです。この頃はヤクザの一員となり、仲間と麻雀をしているときに、眠気が覚めるからと言われて初めて手を出し、打った瞬間に眠気が覚め、体も軽くなり、物事に集中できるようになり、いいものだと思ったのを覚えています。違法だとは知っていましたがまったく罪の意識はありませんでした。3年位やりましたが最後の半年位は、居もしない警察官の声が聞こえたり、顔に虫がいる様な感じになったり、壁に虫が這っているように見えたり、幻聴・幻覚を体験し悩まされ、覚せい剤取締法等で逮捕されました。毎日3回位使用していましたから完全な常習者で、売買用で覚せい剤500gを持っていたせいもあり5年の実刑で刑務所に入りました。
実刑期間も入れ、その後14年位覚せい剤は用いず、その理由は、長い刑務所生活に懲りたという事と、刑務所で日本商工会議所簿記検定1級に合格、出所し中堅商社の経理係長として就職、経理課長代理、経理課長と順調に昇進し、仕事をしていたので覚せい剤の事はすっかり忘れていました。
その私が覚せい剤に戻ったのは、昭和60年に妻が出産で実家に帰ったときのことです。東京に居住していたが、暇で近くの競艇場に行き、昔の仲間に会い、覚せい剤を勧められ暫くやってなかったので、1回位なら誰にも判らないだろうと思いやってしまいました。結局は1回で終わらず、1日1回が2回3回4回と回数も量も増え逮捕されるまで、1年半以上打ちつずける事になり、その間に離婚もし、当然仕事も旨くいかず、幻覚、幻聴、妄想に悩まされつずけることになり、逮捕されて刑務所に入ったのですが、出所後の仕事が旨くいかず、覚せい剤にまた手を出し、昔のヤクザに戻ってしまいました。何故覚せい剤にそんなに嵌ってしまったかというと、「嫌な事を忘れて壮快な気分になりたい」「もっと楽しくなりたい」という気持からです。毎日が覚せい剤の生活になり、逮捕・実刑刑務所の繰り返しで、気が付いたら17年が経っており、東京近郊に持っていた家も、800万以上あった貯金も無くなり、家庭も崩壊し、全てを失くしてしまったのです。木が伸びて見えたりする幻覚や、皆が自分の悪口を言っている様に聞こえる幻聴、自分は超能力者だという妄想だけが残り、現実と妄想の世界の区別が付かず、苦しくて死のうと思い、平成14年7月、致死量の3倍の覚せい剤3g飲み、その時太田病院に運ばれ急性腎不全、黄疸等で死の淵を彷徨いましたが、人工透析や、24時間点滴を5日間以上の治療を施され、死に切ることはできず、措置入院という知事の名の元での入院でしたが、治療を受けながら初めて依存症という事を自分で認める事が出来、尚且つ覚せい剤を使っての自殺行為ですから、刑務所に行くのは決まっていたのですが、札幌太田病院太田理事長が「このまま覚せい剤を続けていたら死んでしまうし、そうなると家族がどれだけ悲しく悔しい思いをするか、又何のための人生だったのか考えてごらん」「これから多分刑務所に行くだろうけど、本気で病気を治したいなら刑務所を出たらその足で太田病院に来なさい、完全に完治するかどうかは判らないけど、昔の生活を棄ててやり直したいと言うのなら、出来るだけの事はして上げるから、もう一度深く自分の人生を考えて見なさい」等と、随分諭されました。覚せい剤依存を治したいという気持ちで一杯だったので、こんな私にも救いの手を差し伸べてくれる人が居ると思うと大変嬉しかったのを今でも鮮明におぼえています。それから刑務所に約3年半いて、病気を治し社会の一員に戻りたい一心で、刑務所を出所その足で太田病院にきました。その頃は幻聴に悩まされていたので、すぐ治療のために入院となりました。
入院中内観療法というのに出会い、自分の今迄の愚かさを思い知らされましたが、特に感じたのは両親の私に対する愛情でした。内観というのは小さなこと一つ一つ掘り下げて行くので、どれだけ私が金銭面で親を利用し尽し、サラ金で600万位の借金をし、支払って貰った事もありますし、覚せい剤の売人もやっていたので、覚せい剤を纏めて買おうとしてもお金が無いときなどは、交通事故を起こした事にして、偽の診断書を作り、300万のお金を騙し取った事もあります。でもこの事に気ずかしてくれたのも内観です。
今は「ニドムの会」という薬物依存症者の自助グループを立ち上げ、薬物の恐ろしさを社会の人に知って貰いたいという事と、私たちは2度と薬物を使用しないで生きていくという事を目標に活動しております。活動の中に週1回のミーティングがありますが、これは今までの体験を深く掘り下げて話す一種の内観です。これを毎週行う事により自分自身をいつも見つめ直しています。
私たちの活動の大きな目標のひとつとして、今、若年層に迄浸透してきている覚せい剤等の薬物の恐ろしさを、社会に知って貰いたいということが有りますが、覚せい剤等は一回やると絶対1回では終わらない、1回やると必ず、逮捕されるか、頭がおかしくなるまでやる事になります。私自身もそうでしたし周りの人間も皆そうでした。その間に、幻聴、幻覚、妄想が入り、周りの人間が皆自分を殺そうとしているような感じにとらわれたりして、大きな事件を起こしたりすることもよくある話です。幻聴、幻覚、妄想の世界で暮らすのは、本当に辛いし苦しいものですが、それでも覚せい剤等を使うのは、使う事により、それが現実の世界と思えるからです。本当に恐ろしい事ですが、それが依存症者の姿であり、生きている世界なのです。刃物を振り回し、罪の無い人間を殺したり、傷つけたりするのは、明日の自分かもしれないのです。正に「覚せい剤止めますか、人間止めますか」の言葉どうりの世界です。覚せい剤以外の薬も全部似たようなところがあります。これからもミーティングを通じて、自分自身を見つめ直して、新しい生活をして行きたいと思っています。
覚せい剤というもの魔界