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カオス・ストーリー2
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ベストピクチャー
第3話
その日以降、俺は頻繁に美術部に顔を出すようになった。
渡辺さんと話す時間が楽しくて、そして彼女の絵の完成を見届けたくなったから。
渡辺さんは一学年下の後輩で、普段はあまり教室から出ないという。どうりで見たことがないわけだ、と俺は納得した。
「黒澤先輩は、その…好きな人とかいないんですか?」
思わぬ質問。
ドキッと胸が締め付けられた俺は、答える勇気もなく、はぐらかした。
「そういう渡辺さんは?」
「えっ? 私は…」
渡辺さんは何か思い詰めたように窓の外を見つめた。
彼女のいつも座る美術室の端の椅子。窓際のその席からは、運動部の練習で活気に溢れるグラウンドがよく見える。
「………」
彼女の視線の先には、サッカーのグラウンド。
きっと、彼女の想い人は…そこにいるのだろう。
「あっ」
俺も彼女同様にグラウンドに目を凝らすと、3年の榛名達海先輩がゴールを決めた。
その瞬間、彼女の口元に笑みが浮かんだのを、俺は見逃さなかった。
ズキン、と胸が傷んだ。
いままで知らなかった痛み。本当に知らなかった。片想いってこんなに辛いんだ。
「好きなの?」
「えっ?」
俺の発した言葉に、彼女はビクッと振り返った。
「達海さん…。好きなの?」
「……そう、です」
きっと、失恋ってこんな感じなのかな。
告白も、してないのに。
「わかった♪ 渡辺さんの協力する!」
俺は思ってもないことを口にした。自分の感情を必死に圧し殺し、精一杯の笑顔で。
俺が彼女の近くにいれる理由が欲しかったから。
「ほんとですか! でもどうやって…」
彼女の嬉しそうな顔が余計に辛かった。
その笑顔は、俺じゃない人を想ったものだったから。
「俺、元サッカー部だからさ」
達海さんは知り合いだった。
俺は去年の夏までサッカー部にいた。怪我をきっかけに辞めるまでは、これでもFWでレギュラーだった。
「やびゃあ!」
「ん?」
「あ…すいません! つい高まって…」
こんなに明るい彼女を見るのは初めてだった。
より一層、きっかけが自分でなく、他の男であることに胸が締め付けられる。
「達海さんと話してみるよ」
そう告げてその日は美術室を後にした。
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