とろり綺麗な夜に

浅野花火

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 私には自主性というものがまったくない。「あれをやって」、「これをして」と言われれば安心してもくもくとやった。
 小学生の頃、『自分から進んで掃除をして教室をきれいにしましょう』というスローガンの元に、自分が決めた掃除用具で自分が決めた場所を掃除しなければならない時があった。私は途方にくれ、掃除をする皆を所在なさげに見ていた。すぐに教師が来て、叱られたが、ほうきを手に持たされた時はとても安心してもくもくと床を掃いたのだった。
 「何がしたい」、「どこに行きたい」といった質問をされるのはとても苦痛だった。


 「部長、見積書の確認をお願いします。」
 「もう終わったのか。やっぱり佐藤くんは仕事が早いなぁ。」
 部長がもともと細い目をさらに細めて言った。でっぷりとした腹に、てかてかした頬、人の良さそうな顔顔をしている。彼は私に大きな勘違いをしていた。何を頼まれても嫌な顔一つせず(嫌ではないし、何より頼まれなければできないのだ。)、もくもくと仕事をこなす優秀な社員だと思っているようだ。幸いな事に私が働いている会社では私の自主性など求めていなかった。小さな会社で役職があるのは社長と部長くらいで、あとは社員も何人かしかいない。その中で私は事務員として、お茶くみをして、掃除をし、頼まれた書類を作っていれば、自主性の無さなど露呈する事はなかった。


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