あもトイレ・愛の名作劇場 ?mari qui estime sa femme?

あも

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爽やかな風をもって地上を照らしていた太陽を拝めたのはそのわずかな間だけで、車に乗り込み発進させる頃にはどんよりとした暗い雲が空を行き交っていた。やがてそれは光を完全に遮断し、代わりといってはなんだけど…と言いたげな申し訳程度の小雨を地上に落とし始める。週末で混線した道路に迷い込んだ車の列は呆れるほどに長く、だけど私達もそれの一部なのだから文句の言いようもない。水滴を拭うワイパーを眼で追ったり、ラジオから流れる曲を口ずさんだりしながら道が空くのを気長に待つことにした。

ふと――窓の外に目をやった。小雨とはいえ、この雨の中、道に隣接したグラウンドではあどけない少年達がユニフォームに身を包み、泥で汚れた白球を懸命に追っている。少年野球クラブだろう。男の子が生まれたらこんなのに通わせてやりたいと、私はフェンス越しに広がる子供らの姿を見つめていた。フェンスすぐ近くに設置されたベンチにはチームの監督らしき男が脚を組んで座っており、喉に筋を立てながら何か叫んでいる。まだ若そうな雰囲気だ。私は少年からその男に興味を移した。

私の目線を脳天で感じたのか、その男はくるりと振り返り、フェンス向こう、渋滞と信号待ちで身動きがとれない、ダークグレーよりもっと濃い色をしたアウディ、そしてその助手席に座る私へと目を向けた。

私はだらけてシートにもたれる事無く、背筋を伸ばしてその男と視線を合わせた。この高級車の品位が落ちぬよう、ありったけの優美さを醸し出しながら。薄いベージュのムートンジャケットに白いニットベアトップを着こなし、耳には真珠のピアス。顎ら辺までの長さの髪を一定の法則をもって巻いた私は、それなりの――‘上品で美しい奥様’に見えるだろう。まぁ、下はジーンズのミニスカートに黒革のロングブーツを履いているから、全体図は若干浮ついた印象を与えるかもしれない。が、車の窓からは上半身しか見えないし、その男――やはり、若かった。骨張った細面の輪郭に円らな瞳。いかにも野球をしていそうな風貌である――は、少々戸惑いながらも、予想通り、私に対して一種の恋慕を抱き初めている。

比較が功を奏したのだろうーー野球少年に付き添うお母様方は皆、地味な色のセーターに毛玉だらけのスウェットを着て、髪なんてお構いなし、といった感じだったからーーそんな青年の熱い眼差しと情熱の一切は、面白い程私に浴びせられていた。

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