あもトイレ・愛の名作劇場 ?mari qui estime sa femme?
あも
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「…ううん、いいの」
私はありったけの力を振り絞って、笑った。
「だってね、もうちょっとでイキそうだったのに、途中で止められるの嫌だったの。ほら、早く取りに行きなよ」
ああ、やだな。また泣きそう。
私は彼の萎えた砲身を頬に寄せ、そのまま俯いた。白いシーツに点を描く水滴の正体を隠したい気持ちと、知ってほしいという葛藤が震える声となって現われた。
「戻ってきたら、続きしてくれるでしょ、…ねぇ?」恐い、怖い。どうして私は、あなたの一番になれないの…。
写真の中で優艶に微笑む女は私の恋敵。でも、同時に憧れの女性でもあったりする。
どうしてこの世にこんな清らかな人がいるのだろうと脱帽してしまうほど、彼の奥さんは、眠る姿さえ気品に満ちて溢れている。私の取って付けた贋作の品格などは到底足元にも及ばないだろう。彼に内緒でその後何回か病室を訪れたが、決まって羨望の眼差しを一心に彼女に注いでしまう。嫉みを抱いたことはついぞない。嫉妬は、してしまうけれど。
この人には勝てない。私が彼でも、私はこの人を選ぶだろう。例えこの人がこのまま目醒める事無く死んだとしても、愛し続ける価値は十分にある。
しかし、時々願ってしまう。彼が、そんな清廉で美しい妻、そして私の憧れの女性の延命装置を切ってくれればいいのに、だなんて。
私は、どうしてこんなに醜いのだろうか。彼と奥さんとの清純な精神を、汚してまで彼を欲する強欲さ。このどす黒い感情が噴き出せば、いくら彼の腕に包まれても私はもう純情な少女になんて戻れない。これは、彼に抱かれたところで浄化される程浅いジレンマではない。
―それでも私は彼を愛している。汚い感情が、芽生える僅かな殺意が、愛を得れない焦燥が、苛立ちが、涙が、彼との関係を断てば解消されるとしても、否、私は彼を愛し続ける。彼と奥さんの世界に図々しくも割り込み、彼を奪い取ろうとする私だ。‘幸せ’なんて望むほうが馬鹿だ。
彼は、何も言わず私の髪を撫でた。愛でる、と言うよりは宥めるように。その左手の薬指に輝く指輪は、奥さんの指に光るそれと揃いのモノで、私がはめている指輪とは色も形も、場所も違う。私は指を絡め、彼の掌にキスをした。
―指輪だけでも溶ければ良いのに。例えば、私の彼への想いの熱さで。
私は彼の手を強く握った。暖かく堅い、大好きな手。
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