死に沈むシニシズム
水瀬
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学校が終わって、いざ帰ろうとした私をクラスメイトの澤谷数馬が声をかけた。彼は生徒会副会長の職についていて、持ち前の気質からか誰からも信頼されていた。
何事にもノーと言えない性格や基本的にお節介焼きなところとか、私と彼には共通する点が多い。
しかし現状として私と彼の待遇というか、クラスでの存在価値は雲泥の差だった。
「なあ、箕作。頼み事があるんだけど、いいか?」
「う、うん。いいけど」
「良かったぁ。じゃあさ、これからちょっと生徒会の仕事を手伝ってくれないか?」
「……わかった」
嫌、とは言えなかった。
ここは教室で、まわりはクラスメイトばかり。
つまりは――敵ばかり。
ここで目立つ行動は避けたかったし、何より反感を買うような行為も避けたかった。もしも私が彼の頼みを断わったとしたら、きっと彼は他のクラスメイトに頼んだだろう。しかし誰もそんな面倒臭いことなどしたがらない。
たとえ彼が人気者だとしてもみんなにはみんなの予定があるだろうし、このクラスメイトにはそこまで彼と関係を深めようと考えるものも実は少ない。
そして思うんだ。
『アイツが断わりさえしなければ』って。
だから、私にはイエスと答えるしか出来なかった。
「じゃあそうと決まれば早い。生徒会室から道具持ってくるからちょっと待っててくれ」
そう言って彼は教室から出ていった。残された私は自分の席に座って待つことにした。
次々と教室から出ていくクラスメイト達はそれぞれがそれぞれの思惑を秘めた視線を私に向けるが、決して声をかけようと思うものはいなかった。
皆、自分が一番可愛い。
私と話したせいで次の日から自分も対象になってしまうのが怖いんだろう。
自分達がいったいどれほどのことをしているのか、みんなは自覚しているんだ。そして自覚したまま、同じことを繰り返す。自分がされたらどれほど嫌なことか分かっているのに平気で人にはそれをする。
これは矛盾じゃない。
矛盾はしてない。
だってみんなは自分がされたら嫌だから、人にしているんだ。自分がされるのを予防するために人に施しているんだ。している間は、自分に向くことなど無いんだから。
それから数十分が経過しただろうか。
教室には私以外に誰もいなくなり、閑散とした孤独がそこにはあった。そこが四十人弱もの人間が一日を過ごす場所だと説明されたところで、誰も信じてはくれないだろう。
私はそこに唯一ある違和感のようだった。
もしもこれが一枚の絵画だとしたら、私さえいなければこの絵は完成することだろう。今すぐ私の上に絵の具を塗りたくって塗り潰して、そうすれば完璧に完成することだろう。
だけど、それは絵の中の話。
現実とは、違う。
私を塗り潰したところで、完成なんてしない。きっと私なんかが絵の具の下に隠れてしまったところで第二第三の『私』が――新しい犠牲者が生まれて、ハイ大丈夫、となるに違いない。私の次に選ばれるとしたら桜島くんかな。彼はオタクだから、キッカケとしては容易そう。理由だって、みんなが納得してくれなくても極一部でもいいから納得してしまえば成立するんだからね。
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