水色の空
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「俺、さっきまで体育なんてつまらないって思ってたけど、体育サボッたから菜摘子と昼飯食えたんだよな。」
裕人はゆっくりと立ち上がると、大きく伸びをした。
「そういうのって、その時々で変わるっていうか、その瞬間にしかわからないっていうか。
あ、もちろん後から思う時もあるけどさ、“今日は楽しかったなぁ”とか“つまんなかったなぁ”とかって。」
菜摘子は、何も言わず、裕人を見上げている。
裕人は一拍の時を置いて、続けた。
「けど、最初から決め付けるもんじゃないって思うよ。 」
そう言うと、裕人は菜摘子の方へ振り返り、水色の空を背に、大きく笑った。
本当に、大きく。
その時、菜摘子は初めてきちんと裕人の顔を見た気がした。
裕人が何を言っているのか、何を言おうとしているのかという事などはもう、どうでも良かった。
ただ、水色の空と裕人の笑顔が、眩しくて、眩しくて。
菜摘子は、裕人に何も言えなかった。
いや、言うべき言葉が見つからなかった。
裕人の言った言葉が、それほど強烈な衝撃を与えたわけではなかった。
今の菜摘子には、裕人でなくても、誰でも似たような事を言ったと思っている。
しかし、もしも同じ言葉を、担任や両親、トモダチに言われたのなら、菜摘子は素直に聞いている事はできなかっただろう。
屁理屈でも矛盾だらけでも、支離滅裂だろうと、何らかの形で反論したに違いない。
ただ、水色の空と裕人の眩しさが、菜摘子をそうはさせなかった。
菜摘子が、眩しそうに裕人を見上げていると、昼休みの終わりを告げるチャイムが鳴った。
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