娘
娘
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(私、恥ずかしい……)私は思いながら、ナッチとマキの腕を縛るロープを解き、起こした。呆然としている二人に中澤が語りかける。
「もう大丈夫。帰ろう、安部、マキ、がんばったね……」泣いている二人を見ながら、私は銃を点検しているレエルのそばにいた。突然ドアに目を向けるレエル。
「お待ちしておりました」レエルの厳しい声、英語。見るとドアにガッシリとした体格の初老の白人が立っている。
「私にメールを送ったのは君か……」
「息子が大変、ご迷惑を……」言いながら頭を下げる男。
「別に、私は仕事ですから……それよりも中澤さんの案内を、ありがとうございました」レエルに促され、皆、部屋を出る。
「この人に基地の入り口から連れてきて貰ったの……、レエルさんがメールで知らせたみたいで……」
私に小声で話す中澤。皆で家から出る。前に停めてあった車に乗り、中澤がエンジンをかけた時、家から一回銃声が聞こえた。
「軍人か……」車内にレエルの声が響いた。
それからの事は覚えていない。病院に着いて、何か注射を打たれたような気はする。気が付くと、ベッドの上だった。
「もう、大丈夫よ」
私に話し掛ける見知らぬ老女、医者なのだろう。
「打たれたモルヒネと……は抜けたわ」何か色々な薬品名を言っているが、全然わからなかった。
「あの……皆は?」ゆっくりと尋ねた。
「平気よ、あと二日程で薬は抜けるわ」ニコニコと話す老女。
「あ、あと……、レ、レエルさんは?」なぜか顔が赤くなる。
悪夢の終わり?
病院で左肩の治療を済ませたのが朝の五時頃だった。予想通り大した怪我ではなかった。病室を見ると皆グッスリと眠っている。
「ばあさん、車借りるよ」言ってホンダの軽を借りる。信号待ちの間に煙草に火をつける。(長い一日だったな……)紫煙を吸い込む。左肩が振動の度に疼く。ようやく事務所に帰り着き、銃の手入れを行う。シャワーを浴び、ベッドに潜り込む。(今日は良く眠れるだろう)十時間後、事務所のチャイムが鳴った。
机に座り、PCを使っている最中だった。司令官からのメールで、真里のマンションに放置してあった黒人を拘束した、とあった。夕刊には、司令官の引退と、その息子の死が小さく報道されていた。死因は事故死になっていた。酒に酔い基地内での暴走、事故……。色々と考えながらドアののぞき窓から、訪問者を見る。意外な人物。長い黒髪、整った顔、意思の強そうな目。ドアを開ける。
「レエルさん」七井サヤカが立っていた。
「あの、ご飯……、食べましたか……?」たったそれだけの事を話すだけでも、勇気を振り絞らないといけなかった。病院でレエルの事務所の場所を聞き、迷いながらもやって来たのだった。
「いや、まだですが?入る?」レエルの声。気を落ち着かせて部屋に入る。
「パスタ、作ろうと」食材の入った袋を見せる。
「えっ?あ、ありがとう」レエルの動転した声。なぜだか、とてもおかしくて笑ってしまった。
(ああ、悪夢は終わったんだ)
レエルの殺風景な部屋。必要な物しか置いていない部屋。
二人はパスタを食べ終え、向かい合う様に座り、食後のコーヒーを味わっていた。
「ありがとう、とてもおいしかったです」微笑みながら話すレエル。
「よかった」自分でもなかなかの出来だと思ったが、やはり褒められると嬉しかった。
「でも、サヤカさんは何故?」レエルの質問にテーブルにカップを置き、答える。
「お礼と、質問があって……」レエルを見つめる。
「質問?何?」
「私が道路に置かれていたマキを見て、車を飛び出した時にどうして助けてくれたんですか。私、もう@娘。じゃないから助ける必要は無かったのに……」(あの時、レエルに庇って貰わなければ弾は私の頭に当たっていた)
サヤカの真剣な声に真面目に返すレエル。
「確かに、ただあの時、俺と君はパートナーだった。だから、助けた……」優しい声。
「でも、私の所為で」頬を涙が伝う。
「ごめんなさい」レエルの手が髪を撫でる。
椅子から立ち上がり、レエルの隣に座る。ポロポロと涙をこぼしながら、ゆっくりと抱きついた。(私とこの人は、住む世界が違う。たぶん、二度と会えない……。でも)胸の中に溢れる想い。押さえられない。レエルの耳に口を近づけ囁く。
「もう、こんな事言いません。一度、だけ……、抱いて欲しい……」サヤカの震える唇。
その赤い唇に、レエルの唇が重なる。コーヒーと煙草の香り……。
(私……ずっと忘れないわ)ゆっくり舌を絡める。
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