娘
娘
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「レエルさん、あれ!」サヤカの指差した前方に冷凍車が停まっていた。
「ん!?」前の道路に横たわる人影。
床一杯に踏み込まれるブレーキ。人の直前で止まるポルシェ。
「マキ!」車から駆け下りるサヤカ。
「バカ!出るな」言いながら、仕方なくドアを開けサヤカの手を掴もうとするレエル。
だが……。『パンッ』吹き飛ぶレエル。
「レエルさん!」サヤカの叫び声。
「動くな……」サヤカがクローゼットの中で聞いた声が闇に響く。
(左肩か……、クソッ)久々に味わう弾の痛み。左腕に流れる血。
「まだ、生きているだろ?」アクセントの狂った声。
(銃は車の中か……)サヤカを見捨てる事のできなかった自分に、なぜか笑いたくなる。
近づいてくる足音。
(右手だけでもやれる)昔、もっとずっと酷い状況でも何とかやってきた。
「変な動きをすると、女を撃つ」綺麗な英語。あきらめて目を閉じる。
『ガツンッ』こめかみに重い一撃。サヤカの叫び声が聞こえた気がした。
気を失っていたのは、長くても十分程度だったろう。
冷凍車はすでに無く、タイヤを撃ち抜かれたポルシェだけがあった。
肩を押さえ中を見るが、銃は無かった。時計を見る。
深夜、二時。車の少ない通りで、絶望的な状況だった。
(黒人と連絡が取れないから、不信に思い待ち伏せしたのか……、女を囮に)
パソコンが見つかる。
仕方なくメールを送る。その時、聞こえる車の音。
(よし、まだツキはある……)近づく車、中澤のアルファロメオ……
「レエルさん、肩、大丈夫……」黒い車の中。
中澤は時折、視線を俺に向ける。
「問題無い。急いで」肩の痛みなど、どうでもよかった。
「着いたわ」見える基地。
「ここで待っていて下さい」言い残し車を降り、昔の記憶を辿り進入場所を探す。
(ここに入るのは、久しぶりだな……)たいして見張りがいないのが救いだった。
音も無く、基地内に入り込む。
(待っていろ……、借りは返す)目的の家に向かう。
(宴は終わりだ……)左肩が熱かった。
目的の家に向かい走る。なぜか、昔の事を思い出す。
12?3年前、まだロシアがソ連だった頃を……。
(辛かったな……)日本人の病気の母、
かつて、レスリングの金メダリストだったロシア人の父。
父が急死し、飢えと貧困の中でKGBの少年課に入隊した事。
毎日繰り返される人を殺す為の訓練。初めての実戦、殺人。
祖国の崩壊、母の死。戦友と一緒に日本に逃亡した時の事。
左手からポタポタと血が垂れる。(あの家だ……)静かに近づく。
家の周辺をまわる。
間取りを予測して、キッチンの窓の下に行く。
普通、キッチンの戸締りは甘い。
人の気配が無い事を確認しポケットからピッキング(鍵開け)の道具をだす。
左手が上手く使えず苦労したが、2?3分程で成功した。
音を立てないように裏口を開き、中へ入る。遠くで聞こえる話声。
近くにあった包丁を取り、足音に注意して声のする部屋へ向かう。
(刃物は苦手だ……)ナイフが上手かった戦友の名を思い出す。(ヤスシ……)
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