穂乃香の長い土曜日・後編。
穂乃香の長い土曜日・後編。
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―足音を沈め、穂乃香は浴室へと向かった。依然聞こえてくる扉の向こうの笑い声に焼け付くような焦燥感を感じながら、少しでも気の休まる場所を求めた。
知り尽くした新城宅の構成。浴室は、先程先生に連れ込まれ怪しい媚薬を塗り付けられた洗面所の、その奥にあった。
カチャッとドアノブを回しながら押し開けると、冷却しきったバスルームが穂乃香の視界に広がった。
昨日、灼熱のように熱かったこの個室が嘘のような静けさだ。昨晩、先生とここで激しい情事を繰り返し行なっていたときは、シャワーが降り注ぐ音さえ聞こえなかったのに、今は蛇口から滴れ落ちる水滴の些細な音さえうるさく響くようだった。
なぜ、この風呂場を居場所として選んだのか。それは穂乃香にもわからなかった。皆を置いて自宅に帰る気は無かったし、他に隠れ場所もないのが理由の一つに挙げられるだろう。が、“お風呂場がある”と頭に浮かんだとき、穂乃香は不思議で不可解な、何とも言えない安堵感を得たのだ。誰も知人のいない畏まった場所で、気心知れた友人と偶然出会えた気持ち、といえば伝わるだろうか。
採点