穂乃香の長い土曜日・後編。
穂乃香の長い土曜日・後編。
19ページ目
尚も襲い掛かる先生の口付けの嵐から、辛うじて逃れた隙を突き、穂乃香は自由になった唇を早口に動かした。
「好きでもないのにキスなんかしないで…っ!私…っ、先生みたいに…そんなに割り切れない!」
とうとう溢れだした涙を、穂乃香はもう誤魔化さなかった。揺れる黒目を先生にぶつけ、ポロポロと零れ落ちる雫を先生の手のひらに撃つ。
「……穂乃香。」
先生が低く呟いた。穂乃香は黙りを決め込み無視したが、顎を掴まれ難なく先生の方を向かされた。
先生の真摯な眼差しが穂乃香の心をキュッと押し潰した。いつものいじわるそうな目線でも、先程の恐ろしく釣り上がった目付きでもない。
ひどく真剣で、どこか憂いを含んだ眼差しだ。
母親の怒りを買ったことを後悔し、反省しつつも、素直に謝れず拗ねる子供のようなーーそう、先生の表情はまさにそれだった。
先生は謝ろうとしているのだ。穂乃香はピンときた。しかしうまく謝るすべを知らず困惑している。シンプルに「悪かった」と言えばいいのに、いままで自分が悪いと思ったことなど一度もない先生だから、初めて後悔の念を抱く自分自身にも戸惑っているのだろう。
採点