穂乃香の長い土曜日・後編。
穂乃香の長い土曜日・後編。
16ページ目
ふらつく足に喝を入れ、穂乃香は先生が立っているドアを目指し歩き始めた。先生とすれ違う瞬間、なるべく先生の姿が目に入らないよう、俯きながら。
―穂乃香の細い手首が何者かによって掴まれた。あと一歩踏み出せばバスルームを抜けられるはずだったのに、手首を掴んだ何かが穂乃香の足ーー及び身体を、冷たいタイルの上へ引き戻したのだ。
バンッと壁に押しつけられ、両頬を痛いぐらい掴まれ、上へ引き上げられた。
先生の鋭利な瞳がより鋭い眼差しとなって穂乃香を射ている。吸い込まれそうな漆黒の水晶体の奥から、怒りの炎がマグマのごとく吹き上がっているのがわかった。
「俺がいつそんなこと言った」
地響きを連想させるような低い声。穂乃香はそれだけで恐怖に戦き、小さな悲鳴を上げた。
「答えろ。俺が――いつ――誰でもいいなんて言った!!あぁ!?」
いつもヘラヘラ笑って余裕綽綽と穂乃香をいじめる先生とは思えない。先生は本気でキレていた。怒っていたのは穂乃香の方なのに、先生の方がずっと先に怒っていたかのようだった。
「…だっ…て…だれっでもって……ひっ……」
採点