幻惑
幻惑
7ページ目
ここは二人部屋らしく、
隣では顎鬚を伸ばした総白髪の老人が寝ながら読書していた。
それにしても首が痛いし喉が猛烈に乾く。
首に手をやるとコルセットのようだ。
僕に気付き老人が口を開く。
「若いの、目覚めたかね?」
「お前さんは自動車事故で打撲やムチウチらしいぞい」
思い出せず神妙な顔をする僕は老人に自販機はないか尋ね、教わる。
体はあちこち痛むが歩行はできそうだ。
自販機に向かう僕の背後で老人は血のように赤い唇を開け黄色い歯をみせ笑う。
老人の犬歯は常人より鋭く長い。
僕が部屋から出るのを見届け小躍りし枕元のポットを開ける。
ポットには人肌くらいの熱さの湯に輸血パックが入っていた。
老人はにやにやしながらパックを取り出す。
懐からカテーテルを出し慣れた手つきで輸血パックに刺す。
輸血パックにはO型(Rh+)とプリントされている。
「危ない。危ない。あんな若造にわしの生血液をとられるところだった。あいつはヨーグルトで十分じゃ」
カテーテルをストローにしチュウチュウと恍惚の表情で血液を老人は吸っていた。
【完】
採点