呪い使い
呪い使い
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プロローグ
「ねぇねぇ、読んだ? 呪い使い〔まじないつかい〕」
「うん、読んだ読んだ。めっちゃ恐いでね?。あんなのが本当におったら、うち
怯え続けないかん?」
「何言いたいが? 呪い使いが狙うのはエリートだけじゃないが? あんたが狙
われたらそれこそ呪いじゃん」
今、巷で話題を呼んでいる人気ホラー小説「呪い使い」。若手作家が書いたこ
の小説がここまで人気を呼ぶことになったことに意外だと言う声も上がっており
、これも「呪い使い」の呪いだろうという笑い話が起こったりしている。
「呪い使い」それは、子供。ほとんど普通に生まれてきた男の子。ただ一つ、
何故か既に生えそろっていた髪は明るい緑色に輝いていた。
最初は、変わってるね、で済まされていたその髪も、いつしか〈不吉〉へと変わ
っていったのだ。それは何故って? それは、男の子が呪い使いだから。呪いを
呼び起こす張本人だから。
「呪い使いに気をつけろ」「触ると呪いをかけられてしまうよ」いろんな声が
聞こえてくる。
あなたも気をつけて。あなたも、あなたのそばのあの人も、いつ緑色の髪の呪
い使いに出会うか分からない……。
西暦一九九二年、十一月。
四国地方のある病院に産声が響き渡る。
無事、出産したようだ。
担当医が男性の下へ静かに歩み寄り、しばらく待機するようにと告げた。
男性は、無事子供が生まれたのにもかかわらず、医師の雰囲気に押しつぶされ
そうな感覚の中では大声で喜ぶことができなかった。
しばらくすると、担当医は一人の医師を連れて男性の元へとやってきた。
(院長先生……?)
二人の医師の表情は真剣そのものだ。
「院長室の方へお越しいただけますか」
担当医が連れてきた医師、院長は言った。
「樋口先生、赤ちゃんの方はよろしくお願いします」
院長は担当医にそういい残し、それでは、と有無を問わぬ表情で男性を促した。
促されるままに院長室へと入っていった。
「山口さん、先ほどお生まれになった赤ちゃんについて重大なお話があります」
そういって院長は話し始めた。院長の形式的な自己紹介を聞いた後、話は訳のわ
からぬ方向へと進んで行く。
「山口さん、あなた、もしくは亜里沙さんの親戚の中に、西洋の、緑色の髪をし
た方はいらっしゃいますか」
山口と呼ばれた男性は何かを考える間もなく疑問の声を上げ、一息置いてから首
を横に振った。
「では、ホラー小説とかお読みになりますか」
山口は疑問の声を上げるのをこらえ、冷静に、そしてどこか怒りに近い物をこめ
て聞いた。
「あの、院長先生。それと赤ちゃんと何の関係が?」
院長は少し間を空け、ゆっくりと、慎重に言葉を選ぶように話し始めた。
「先ほどお生まれになった赤ちゃんは、少し、普通の、生まれ方とは違っていま
した」
一度言葉を止めた院長はしばしの間考え、話を再開した。
「実際にご覧になった方が早いでしょう。申し訳ありませんが、病室の方へお越
しください。ですが……、ショックを受けないとは言い切れません。心の準備を
してからで、結構です」
山口の表情は少しずつ硬くなっていく。心の中では目まぐるしくたくさんの思い
がよぎった。第一子の出産、院長からの話、実際に見れば分かり、ショックを受
けるかもしれない。院長の言葉はきっと正しいのだろう。だが、突然そんなこと
を言われても……、と。
十数分後、山口が院長に話しかけるまで、院長は一言も発しなかった。
「院長先生、病室へ、行きます」
院長はうなずき、二人は院長室を後にした。
院長は病室の前で立ち止まり、どうぞと促した。出産した部屋ではない。別の部
屋に移されたのだ。山口は一度目をつぶり、しっかりと呼吸をしてから部屋への
一歩を踏む。
山口は言葉を失った。だが、ショックを受けたという表情ではなく、不思議な物
を見ている、そんな感じだった。
山口は「緑色」と呟いた。
「そうです。山口さんの赤ちゃんは、明るい緑色の髪が生えそろった状態でお生
まれになりました。極めて珍しいことです。山口さんに外国の親類がいるか確か
めたのはこのためです」
緑色の髪。この一言が全てを物語っているようだった。
山口は不思議そうに赤ちゃんを見つめながら院長に聞いた。
「ホラー小説って言うのは何ですか?全く関係がないじゃないですか」
「呪い使い。三十年ほど前、呪い使いというホラー小説が出版され、驚くほどの
ベストセラーになった……」
院長が話し出したのは、緑色の髪をした呪い使いという小説のことだった。そし
て最後に、もしお読みになっていたら話が切り出しやすいかと思いまして、と締
めくくった。
山口はあまり深くは考えずその話を聞いていた。未来、その話が大きく係わって
くるとは知らずに。
「山口さん、赤ちゃんは、緑色の髪をしていることで偏見をもたれる可能性がな
い訳ではありません。もしそうなったら、彼を守ることができるのはご両親だけ
です。大変だとは思いますが、頑張ってください」
山口は、妻、亜里沙の体調が回復するまでは赤ちゃんを病院の別室で看てもら
い、その後全てを話すことにした。
一週間後、山口亮太〔りょうた〕・亜里沙〔ありさ〕夫妻は、第一子である緑
色の髪の男の子、祐樹〔ゆうき〕を大切に育てていくと心に誓った。まだ、何も
知らないとは思いもせずに……。
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