呪い使い
呪い使い


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第一話

 二〇〇四年。冬。
 年を越せば間もなく入試。最近では、幼稚園や小学校も私立や国立に受験する人が多いらしい。十二歳の山口祐樹は、国立中学校へ受験するための勉強に励んでいた。

「じゃーな。また明日?」
「おう、またな」
塾からの帰り道、祐樹は友達と別れ、寒い夜道を自宅に向かいペダルをこぎ続けていた。
 街灯が少ない暗い路地に入ったとき、目の前に老人が現れ、祐樹はとっさにブレーキをかけた。
「おじいさん、ごめんなさい。慌てちょって……」
「時代は流れる。そして、皆慣れてしまう。坊や、今から言うことをよく覚えなさい。「呪い使いの新生は世に大いなる歴史を生み出す」理解はしなくていい。いつか分かるだろう。気をつけて帰りなさい」
「は、はい。おじいさんも風邪引かないようにね」

「ただいま?」
「お帰り。いつもより遅かったわね。何かあったの?」
祐樹は自宅に帰りついた。
亜里沙はいつものようにたくさんの本と格闘していた。亜里沙は自称翻訳家。日本の古い書物を現代の口語に面白おかしく訳して出版している。
亮太はいつものようにまだ帰ってきていない。亮太は教授。大学で情報工学の研究をしている。
「帰り道に変なおじいさんに会ったんだ。そんで、「呪い使いの新生は世に大いなる歴史を生み出す」っていう言葉を覚えておけって言われたがやけど、どういう意味か分かる?」
「えっ!? さ、さぁ、単なる変なおじさんだったんじゃない?」
亜里沙は驚いたが、日頃から何かに熱中しているときに声をかけられたらいつも驚いた声を出すので、祐樹は特に気にしなかった。
「やっぱそうか?。ま、いいや。勉強、勉強」
「無理しないでね」

 祐樹が自分の部屋に行って間もなく、亜里沙は亮太に連絡を取った。
「……。というわけなのよ」
「そんなことが……。分かった。今日は今から帰る。明日、図書館に行って一度読んでみる。「呪い使い」とかいう小説を。ま、あんまり気にするなよ」
「うん……」

 翌日。県立図書館。
「呪い使いは……、あった。これが、呪い使い……」
亮太は、「呪い使い」を見つけると、左手に本を、右手にペンを、手元にはノートを置いて猛烈な勢いで読み始めた。
読みふけること一時間。
「参考文献……。仏と源(一〇〇〇年)、権力(一一〇〇年)、その他某国立大学医学部名誉教授論文など……。つまり、豪華な参考文献、内容は、……、あんま好きじゃないな」
内容、呪い使いが現れ、恐れられ、最終的にはいなくなる。もちろん、その間にいろいろなことがあるのだが、大雑把にまとめればこうなる。
 亮太は、カウンターに向かい、参考文献の書物についてたずねた。
「すいません。一〇〇〇年に出版された「仏と源」と、一一〇〇年に出版された「権力」という書物はありますか?」
「申し訳ありませんが、この図書館に歴史的な資料はほとんどありません。この県に係わる資料でしたら、歴史民族史旅館の方に少しあると思います。その他の資料は、東京のほうに保管しているはずです」
「分かった。ありがとう」

 そのころ、小学校では。
「なんか面白いこと起こらんろうかね?」
「祐樹の面白いってどんなが? 突然銃を持った謎の男が侵入してきて乱射するとか? 突然ガソリンを持った謎の男が侵入してきて放火するとか? それとも、突然金を持った謎の男が侵入してきてばら撒きだすとか?」
「ハハハ。まさか。(火事か?。めっちゃくちゃ楽しそう。どうせなら爆発事故とか起きんかな)」
「じゃ、え?っと、赤い髪の美少女が祐樹を王子様だとか言って追いかけてくるとか?」
「何で赤い髪なが?」
「だってさ、祐樹の髪とよく映えそうじゃん」
「……。(ユウキ ノ カミ ト ヨク ハエソウジャン……?)」
周りの友達が笑顔で会話を続ける中、祐樹は一人息を飲んだ。

 祐樹が深く息を吸い、何かを考えるかのようにゆっくりと目を閉じ、再び目を開いたとき、爆発が起こった。それはどこか。そこは六年二組、祐樹の隣のクラスだった。
当然、学校中でパニックが起きた。学校の端から端まで聞こえるぐらいの大きな爆発音だったのだから。教職員も、児童に落ち着くように言いながらも、自身がパニックに陥っていることを気づいていない。
{全校児童は、今すぐ、担任の先生の指示に従い、運動場に移動しましょう。繰り返します。……}
校内放送の声もいつも以上に緊迫している。それを感じ取った児童は恐怖を感じ、感じ取っていない生徒は何事かと興味津々。
ようやく、運動場に全員が避難したというとき、一人の女性教諭が悲鳴を上げた。
「ひ、一人、女子児童が、体育を休んで、教室に、残っていた、はずです。運動場には、来て、いません」
校長、教頭、その他の教職員の顔が蒼白になるのが見て取れた。
「うっ、」
祐樹が倒れかかった。
「おい、大丈夫?祐樹」
祐樹は顔をこわばらせ、ただ座っていた。全校がパニックに陥っているおかげか、祐樹に声をかけた友達も祐樹の髪の色がいつもに増して明るく風にたなびいていることに気づかなかった。

 そして同じ頃、山口家宅では。
「うん、分かった。はいはい。じゃ、よろしくね」
「全く、亜里沙の趣味には傾向が全くないわね。次は、仏教なの?」
「ま、いいから、よろしく。じゃ、またね」
一方的に言い終わると、受話器を置いた。
東京の翻訳仲間に電話をしたのだ。内容が分かる資料を送ってくれと。そう、「仏と源」「権力」だ。もちろん、亮太が亜里沙に頼んだのだが。
 その時、玄関のチャイムが鳴った。
「はーい。どちら様ですか?」
「始めまして。私は里中 日向〔さとなか ひなた〕というものじゃが。こちらは山口祐樹殿のお宅かな?」
「はい。祐樹は息子ですが。何か?」
「緑色の髪の?」
「は、はい。息子が何か?」
「危険にさらされておる。近いうちに周りのものの見る目が変わるじゃろう。用心するのじゃ」
「あの、おっしゃっている意味がよく分かりませんが」
「いや、分かっておるじゃろう……」
「あ、あの、し、失礼ですけど「呪い使い」っていう言葉、ご存知ですか?」
「鋭いのう。また出会うことになるかもしれん。その時まで」
老人、日向は笑いながらそう言うと去っていった。
 亜里沙は、めまぐるしく大きな何かが動き出したのを感じた。
 電話が鳴り響き、亜里沙は家の中へと急いだ。
「もしもし。亮太? 何か分かった?」
「テ、テレビ見てるか? 学校が、学校が大変だぞ」
亜里沙はとっさにテレビをつけた。

{……が起こった小学校です。今のところ、原因は不明。爆発のあった教室に一人の少女がいたかもしれないという情報しか入ってきていません。い、今、動きがあった模様です。少女です。男子児童におぶさって、校舎から出てきました。男の子の方は緑色の髪をしています。女の子は、血、でしょうか?髪の毛が真っ赤になっています。このまま、女の子の方は病院へ搬送される模様です。警察と消防は事件・事故の両方の可能性があると見て今後捜査されるようです。以上、現場からの中継でした}

「おい、亜里沙、聞いてるか?」
「ゆ、祐樹が、祐樹が……」
「落ち着くんだ。祐樹はきっと無事だ。とりあえず、今から学校に行って祐樹を帰る。落ち着いて待ってろ」
「わ、分かった……。頼んだわよ」

 小学校では。
「皆、よく聞いて。今日はこのまま放課とします。明日、警察・消防を交えて、おうちの方に説明をします。皆は、気をつけて、なるべく大人数で下校するようにしてください。今日だけは、道草は絶対にしないでください。おうちの人も心配していると思います。じゃ、さようなら」
「さようなら?」
担任の先生からの説明を受け、さすがにびくびくしながら帰宅準備を進める児童達。爆発後、祐樹は放心状態だった。教職員は爆発のショックだろうといい、亮太が迎えに来たときに帰宅させた。

 だが、祐樹の友人達は、単なるショックだとは少しも思っていなかった。
「あのさ、和磨〔かずま〕、祐樹、何か変じゃねぇ?」
「だよな、孝之〔たかゆき〕。あいつなら、爆発が起こって喜びそうやのにな?。あんな祐樹見よったら、こっちの気が抜けそう」
「あと、さ、あのさ、祐樹が爆発の後、運動場から校舎に行くの、見た?」
「それそれ、あいつが、めまい起こして、何か先生が喋り始めたきそっち向いちょったら、いつの間にか消えちょって、田中をおぶって校舎から出てきた。まじ変な感じ……」
「おぶる方は緑色。おぶられる方は血の赤色。……」
「ま、まぁ、帰ろうぜ。先生らあも気絶しそうやし」
「そうやね。じゃ、また明日?」

 とある病院にて。
「はい。確かに、あの子の髪に付着していた赤い物は血液で間違いありません。ルミノール反応が出ました。ただ、あの子には全く、それこそちょっと転んですったという程も外傷がありませんでした。あの子を助けたという男の子の方は怪我をしていませんでしたか?」
「いえ、私どもの見る限りではありませんでした。ただ、爆発にショックを受けたのでしょう。軽い放心状態になっていました」
「その子も病院に?」
「いえ、怪我はなさそうでしたし、お父さんがお迎えに来ていたので、そのまま帰宅させました。先生、何故田中さんは、意識が戻らないのでしょうか? 外傷はないんでしょう?」
「爆発の強い光を見てショック症状を起こしたとしてもおかしくありません。しかし、外傷はない。爆発は、何故一教室だけにしか被害がなかったのでしょう? 大爆発だったと伺っていますが……。医学的なことより、そちらの原因究明のほうが謎が多いでしょう。……。とりあえず、田中さん、でしたかね? 田中さんは、意識が戻り体調が回復するまで入院が必要です。保護者の方には連絡が取れましたか?」
「はい。今、こちらに向かっています。先生、よろしくお願いします」

 再び場面は移り、山口家宅。
「ただいま」
「祐樹、お帰りなさい。疲れたでしょ。晩ごはんはとっても美味しい物つくるから、今日はゆっくりしてなさい」
階段を上りかけていた祐樹はふいに立ち止まり、不自然に体を硬直させて、目を見開き、しわがれ声でゆっくりと言った。
「呪い使いの魂は、後継者への道を見つけ、今、刻々と迫り来るであろう」




第二話へ続く……
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