死に沈むシニシズム
死に沈むシニシズム
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昨日の光景が目に焼き付き、昨夜は一睡も出来なかった。
あの、落ちていく彼女の不気味に歪んだ口元が、今も消えず頭の中に残っている。だからといって私はそれに対して恐怖を抱いているわけじゃなかった。
気持悪かったんだ。
死ぬ瞬間、自ら死を選択した後で、どうして笑えるんだろう、って私は思った。
生きること全てを諦めたから笑えたのか、それとも死ぬことが彼女にとっての快楽と化したのか、はたまた彼女も苦痛に苛まれていて解放されたゆえに出た安堵の笑みだったのか。
真相は闇の中。
それを知る者は、すでに死んでいるんだから。
しかし、私にはどうも最後の推論だけは、違うように思えた。苦痛から解放された安堵が、あんな醜く歪んでいるわけがない。
そう思う――いや、そう思いたいのかもしれない。
だって、あれじゃ、あんまりにも希望が無さすぎる。
確かにキリスト教で定められているように、自殺は神の御許へ行けないくらいの罪悪なんだろうし、自分の命を粗末にするんだから、そのくらいの報いはあって当然なのかもしれない。
だけど――それしか逃げ道が無かったとしたら、他に何を選べというんだ? 他が全て苦痛でしか無いとしたら、どうすればいい?
その苦痛の先には……なるほど、幸福が待っているのかもしれない。きっと耐えて耐えて耐えて耐えて耐え抜けば、楽しいこともあるはずだ。
『今』に絶望して死を選ぶっていうのに、そんなこと言ったらフザケルナって感じだよね。何も分かってなくて分かろうともしない理想論者の妄言でしかないよ……。
どんなに今が苦しくて逃げたくて辛くて死にたくて……何度考えたかなんて数えてないから分からないけど、多分死にたいと思った回数だけだろうか。
私は、解放されたい。
死にたい、と思う。
でも、死にたくない。
これは矛盾ではない。
矛盾していない。
――鬱々々々々々、と気分が陥ってきた。まるでセカイがコールタールの海につかったような不快感と息辛さに包まれ、何も考えられなくなる。
イキルイミハドコニアル?
イキツヅケテナンニナル?
私はテーブルの上に無造作に放り出されていたカッターナイフを掴み、カチカチカチと刃をスライドさせた。そして腕を捲り上げ、腕に刃を滑らせる。
すると腕に『線』が出来た。
『線』からは赤い液体が溢れ出してきて、『線』はすぐに『面』になる。痛みを神経が認識し、脳に伝えた。
慣れた痛みが鬱々とした気分に刺激を与え、溢れる血が視覚的な安心感を与えてくれる。
嗚呼、私、生きてるんだ……。
私は『私』を認識し始める。
私。わたし。ワタシ。
輪郭が、カタチ作られ。
このままもう少ししていれば、多分いつもの状態に戻れる。
異常から平常に――。
異端から平坦に――。
――と、同時に。
吐き気がした。軽いフラッシュバック。胃の内容物が逆流してきそうだ。気持ち悪い。吐きそう。吐きたい。全部吐き出したい。吐いた方が圧倒的に楽なのは知っているけど、たとえゴミ箱があったとしても自分の部屋で吐くわけにはいかない。下へ行って吐いたんでは家族に知れて要らぬ心配をかけさせてしまう。私はもしもの為に口を押さえて、感覚を頼りに無理矢理飲み込むイメージで食道を逆流してきた吐瀉物を押し戻した。
「ぅぐっ……」
喉元に独特の言い様のない酸っぱさと少しの残留物が残っていた。私は下へ行って冷蔵庫から飲料水の500mmペットボトルを取ってくると、未だ違和感が残る喉に流し込む。飲料水が残留物を取り去る感覚が、心地好かった。
私はベッドの上に倒れ込む。
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