大海走る白球
大海走る白球
倉間九十九


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それに気付いた少女が、

「げ、ヤバ…」

と、背を向けた。

「じゃ、またね」

慌てて走って行く少女の背中を、瀬ノ川はやはりぼけっと眺めていた。

「あれ、瀬ノ川。お前先に帰ったんじゃなかったのか?」

団体の先頭を歩いていた村井が、瀬ノ川の肩をドンと叩いた。

「……。瀬ノ川?」

いつもとは様子が違う瀬ノ川に、村井はただ首をかしげた。





オープン戦のチームの戦績は散々だった。

もう半分以上の試合を消化したが、投打共に12球団で最下位争い。その中で、瀬ノ川は安定した投球を見せていた。

その日も試合が終わり、帰る準備をしていた。

「おーい、瀬ノ川」

もう随分聞き慣れた声に呼ばれて振り向いた。

「なんスか?」

大卒からプロに入って三年目を迎える先輩、石井宏大だ。

石井は後輩の面倒見がよく、瀬ノ川や村井もよく食事に誘われたりしている。

「今日合コンすんだけどさ、お前も来ねぇ?ちょっと面子が一人足りなくてな」

あまり気は進まなかったが、その後一人を探すのに随分苦労しているようだったので、しかたなく承諾した。

瀬ノ川も大卒だが、大学では合コンをした事がなく、いまいちピンとこない。

どんな格好して行けばいいんだ?

少しの間思索したが、なんでもいいやと、すぐに荷物を片付ける作業を再開した。





指定されていた居酒屋の前までいくと、石井ともう一人、松本高明がいた。彼はプロに入ってもう四年目になるが、高卒だったため、瀬ノ川の年下となる。

「よぉ、瀬ノ川!」

「ども、瀬ノ川さん。今日はよろしくお願いします!」

松本が丁寧に頭を下げた。

「もう向こうさんも揃ってるから、中入ろうぜ!」

石井は待ちきれないように、そう言い終わる前に店内に入って言った。松本が喜んで後に続き、瀬ノ川は小さく溜息を着いた。

酒…苦手なんだよな……





「きゃ?、本気なんですか??」

「マジだって!それが頭に当たってボールがどっかいっちまってさ─」

合コン開始からはや二時間。石井は喋り続けていた。そんな石井を横目に、瀬ノ川は今日何回目かの溜息をつく。

やっぱ来なきゃよかった…と─

相手の人数も三人。一人だけ随分綺麗な子がいた。名前はもう忘れたが……

茶色混じりの黒髪が、真っ直ぐ背中の真ん中よりやや上まで伸びている。少し垂れた目尻と、赤く小さく膨れた唇が、常に彼女に柔和な笑顔を与えていた。
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