大海走る白球
大海走る白球
倉間九十九


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ストレートに嫌な事を聞いてくるな…

瀬ノ川は思わず顔をしかめかけたが、ぐっとこらえた。見た感じ、明らかに自分より年下だ。

「まぁ…。そうだけど…。何か用?」

堪えつつも、無愛想に答えた。

しかし少女は特に気を悪くした風でもなく、
「ここ!」

と、自分の後頭部をずいと見せてきた。

ふわりとそよいだ春風が、鼻腔を心地よくくすぐる香りを運び、瀬ノ川は僅かに頬を染めた。

「なに赤くなってるのよ」

少女が呆れた様にジト眼で見ているのに気付き、慌てて繕う。

「良く見て!ここ、こぶができちゃってるでしょ!」

確かに…。

小さなこぶが、プクッと痛々しげに存在をアピールしている。

「ああ…。痛そうだな……。慰めて欲しかったのか?」

半分皮肉、半分本気で尋ねたらまた睨まれた。

「バカ言わないで!あんたが打たれたホームランボールが、見事に私の頭にヒットしたのよ!」

ああ、と納得。

瀬ノ川はポンと少女のこぶに手を置き、

「次からは試合中に余所見したりするなよ」

と言った。

「私はここで売り子のバイトしてたの!売り子!わかる!?試合に集中してたら仕事にならないでしょ!!」

「なるほど。そいつは悪かった。もう極力ホームランを打たれないように頑張るよ」

そう言うと、少女の吊り上がってた両瞳が、パッと落ちて笑顔になった。

なんだ…。笑ってたらそれなりに可愛いじゃんか……。

「じゃあ、これ!」

少女がポケットからボールを一球取り出し、瀬ノ川に押しつけた。

「?」

「サイン」

「え?…俺の?」

当たり前だ。まさか誰々のサインを俺に変わりに書け、なんて言うわけがない。

驚いたとはいえ、馬鹿な事を聞いてしまったと後悔した。

しかし少女は笑って、

「当たり前じゃん」

と言うだけだった。

初めてファンに直接書くサインに緊張したが、ぎこちなくも丁寧に書いてやった。

「ありがと。ちなみにこれ、あんたが打たれたボールだよ」

「だと思ったよ」

初めてのサインが、自分の打たれたホームランボール。そのことに苦笑を隠せない。

少女も瀬ノ川の苦笑を見て、また笑った。

思ってたより、よく笑う子なんだな…。

そんな事をぼけっと考えていたら、瀬ノ川の後ろが騒がしくなってきた。チームメイト達が出てきたようだ。

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