大海走る白球
大海走る白球
倉間九十九


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鞭のようにしなる右腕が、信じられない弾丸を生み出す。

パァァァンッ!

ミットに球が収まった時の音など、俺なんかとは全く別次元だ。

俺の直球の最速は142キロ。アマチュアではまぁ早い方だが、それでも驚くほどではない。プロになれば、むしろ遅いと言われる。

でも、俺の投球の武器は直球ではない。俺は高校の三年間、伝家の宝刀のシュートで戦ってきた。俺は左投手なので、左打者の手元にえぐるように潜り込む魔球だ。

しかし伝家の宝刀と、得意になっていたその球でさえ、ここでは所詮子供の投げるへなちょこ球になってしまうようだ。

「瀬ノ川」

二軍の投手コーチに呼ばれた。

「はい」

「お前、このキャンプ中にカーブを覚えろ」

「カーブですか?」

随分ありきたりな変化球を教えられた。

カーブなんて、誰でも投げるお手軽な変化球だ。

そう思いながらも、さっそく投げてみる。ほら、すぐ曲がる。

しかしいいカーブを投げるのは難しいものだった。キレや曲がり始めるタイミング。何よりコントロール。

結局俺の春期キャンプは、ほとんどカーブ練習と走り込みで終わった。






「お疲れーぃ」

グラスのぶつかる音が心地よく響いた。

といっても俺と村井は揃って未成年だ。乾杯の中身はウーロン茶である。

酒を飲んだことないつったら嘘になるけど、流石にプロの世界にきてしまうと、見つかったときに怒られる程度じゃすまないから、二十歳までは絶対に飲まない。

練習後の晩飯。

俺と村井はよく二人で飯を食いに行く用になっていた。

趣味も好きな音楽も、共通点はほとんどないのに、不思議なものだ。

「キャンプもついに終わってオープン戦が始まるわけだが、お前的にどうだったよ?」

「俺はもうカーブなんて飽きたかな…。オープン戦は楽しみだな」

活躍する自信はあまりないけど…

それは言わなかったが─

「瀬ノ川。やっぱ変化球一つじゃしんどいって。プロじゃあ二つでも難しいと思うぞ。カーブは正解だと思うけど……そうだ!瀬ノ川!俺と勝負しようぜ!」

村井が身を乗り出す。

「勝負?」

「そう。どっちがさきに一軍に行けるか!負けた方はディナーのおごりだ」

あまり興味はなかったが、断るのも面倒だったので、瀬ノ川はわかったと頷いた。

「せっかくなんだから、楽しまなきゃな!」

村井はそういってウーロン茶を一気飲みした。
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