桜の花が赤いのは…

浅海加奈子

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カオス・ストーリー23
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「それで呼ぶのやめてよ。…それより」
ごめん、と翔太が小さく謝る側で、携帯をカバンにしまった詩織は、公園の入り口に出来た人だかりを示す。
「何かあったの?」
「さあ…」
二人はとりあえず、人だかりに割り込むようにして、公園の方を観察する。入り口には「関係者以外立入禁止」のテープが貼られていて、野次馬は遠い外野席から、何が起こったのかを眺めているらしかった。
この公園は昔から、あまりいい話がない。桜の季節になると、小さな男の子が現われて、薄気味悪く笑いかけるとか、誘拐事件があって、さらわれた子供がまだ見つかっていないとか。
あの事があるまでは、翔太もその他大勢の人が考えたように、でたらめだと思っていた。この辺りは人通りも少ないし、明かりがあまりないので、夜の公園が不気味だったのは事実だけれど。
「まさか本当だったなんてねぇ」
人と人の間を割って、翔太と詩織は公園の入り口の方へと進む。そうしているうちに自ずと聞こえるのは、集まった野次馬のやり取り。
「桜の木の下から、白骨が出たんだって?」
心臓を凍った手で鷲掴みにされたような、得体の知れない寒気が走る。
ようやく人だかりの最前列へとやって来た詩織は平気で観察していたけれど、翔太は不気味な動悸が止まらない。
十二年前、この公園で出会った男の子。噂が本当だったとささやく野次馬。
古い桜の木は数年前から枯れ始め、昨年伐採が決まった。跡には新しい桜を植える話が決まっていたが、伐採直後から原因不明の事故が相次ぎ、一時中断された。そして今年、切り株にお祓いを済ませてから、取りのぞいてしまう予定だったのだ。
ああ、なんてタイミングだろう。あの忌まわしい出来事を思い出すなんて。
「翔太?」
詩織が不思議そうに振り向くと、翔太の顔は青ざめて、恐怖に張り詰めた表情をしていた。人とは違うものが見えるという秘密を知っている詩織でも、一瞬戸惑ってしまうくらいの表情。『一人ぼっちだった』
そう、あの子は言っていた。明日では嫌だとも。
そういえばあの翌日、春には珍しいくらいの寒空で、あの桜は散ってしまったんだっけ。あれっきり桜には近づかないようにしていたから、あの子が誰なのか、知らないままだったけれど。
「何か見えるの?」
不安に染まった顔と声で詩織が尋ねると、翔太は目隠しが施された桜の木の辺りを見つめたまま、呆然としたような声で答える。
「違うよ」
小さく息を飲んでから、翔太は言葉を紡ぐ。
「昔会った事があるだけ」
………



桜の花が赤いのは、死体が埋まっているからだという。小学校の理科の実験でやったように、色素のある水分を吸うと、白い花が染まったように……。
古くから植えてある桜の木の近くに、満開になる頃やって来る人はいませんか?果たしてその人は生きていますか?

そうでなかったらもしかすると




















 「桜の花が赤いのは…」  終

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