彼方から……
彼方から……
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それは紛れも無くポチが俺だけに見せる、お腹を撫でる事を要求するポーズ。
『ポチ……』
俺はゆっくりと膝を折ってポチのお腹に手を宛てようとした。でもやっぱり、その綿毛のようなほわほわしたお腹に触れる事なく俺の指は擦り抜けてゆく。
「ミャ?ン、ミャ?ン」
いつまで経ってもお腹を撫でてもらえないポチは、起き上がって鳴くと再び寝そべってお腹を見せる。そんな動作を幾度となく繰り返し続けている。
『ダメだ……ダメなんだよポチ。俺は撫でてやれないんだ……ごめんよ。』
初めて肉体が無い事を悔しいと思った。想いを伝えるコトも出来ず、触れるコトさえ出来ない……
「か……つき?」
不意に耳に飛び込んだ声に俺が顔を上げると、大きく目を見開いて美宇はこっちを見ていた。
『美宇……俺だよ。』
「克樹……そこに……いる…の?」
『…ああ…』
「ねぇ、そこにいるんでしょ?答えて……答えてよぉ!!克樹ぃ!!」
違った……
美宇の目も耳も俺の存在に気付いた訳じゃない。ただ感じたんだきっと……
ポチの甘える仕種、そして俺だけに見せる行動を見て。
「どうして…答えてくれないの?あたしのコトを恨んでるから?」
微妙にズレた方向に向かって美宇は呟く。その瞳からは涙が溢れ、とめどなく頬を伝い流れ落ちていった。
『違う!!恨んでなんかいない!クソッ…なんで伝わんないだよ!なぁ美宇、聞いてくれ。俺は……』
「当たり前だよね。あたしのせいで死んじゃったんだもん。克樹、ごめんね。あたしだけ生きてて……」
『美宇……』
「こんなコト言えた義理じゃないけど、もう少しだけ待って……身の回りを整理する時間をちょうだい。そしたら、あたしも克樹のところに行くから……。あなたの四十九日には必ず間に合わせるから……」
『ふざけんなっ!!お前を自殺させる為に助けた訳じゃない!!馬鹿なコト考えんなよ!!』
「ねぇ克樹……。その時はあたしを迎えに来てくれるよね?」
『美宇っっー!!』
……パアンッ!!……
その瞬間、俺の叫び声とともに蛍光灯が砕け散った。一瞬身体をビクンとすくませた後に美宇は蛍光灯を見上げ、薄く笑うと再び俺の方へ顔を向ける。
「ありがとう克樹……。あなたの答え、確かに受け取ったよ。だから、待っててね。」
美宇は笑っていた。だけどその顔は覚悟を決めた者の壮絶な笑み。狂気を孕んだ眼差しに思わず目を背けたくなる程だった。美宇は、ゆっくりと立ち上がり涙を拭うと再び笑顔を見せる。
「ご飯食べてくるね。あなたと逢う日の為に、体力はつけておかなきゃ……」
『ダメだ!!自殺する為に頑張るなんておかしいだろ?やめろ!!やめるんだ美宇!!』
俺は両腕を広げて美宇の前に立ちはだかる。けれど、何の障害もなく美宇はドアを開けて部屋を出ていった。俺の身体を簡単に擦り抜けて……
(見て来ましたか?)
再び声が聞こえて気付くと、俺はまたあの白い空間にいた。
「見て来たか…だと?テメェも案外、腐ってやがるんだな……」
(どういう意味ですか?)
「自分が助けた女が自殺を決意する姿を見せる為に俺を下に降ろしたのか?お前のやったコトは無意味で無駄だと教える為に……」
(そんなつもりはありません。彼女があなたの存在に気付いたのは計算外でしたが……)
「人間は、あんたの計算通りに動いてる訳じゃない!あいつは勘違いして自殺を決意しちまった。どうすればいいんだよ……」
焦り、苛立ち、襲って来る恐怖感……為す術の無い状況に俺は頭を抱えていた。
(ならば、あなたが助けに行きますか?)
唐突な声の提案に俺は呆けた様に顔を上げる。
「そんなコトが出来るのか?」
(あなたに二つの選択肢を与えます。このまま上にあがるか条件付きで彼女の許へ行った後に地獄へ堕ちるか……克樹、あなたに問います。どちらを選びますか?)
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