彼方から……
彼方から……
4ページ目
しばらくして意識を取り戻すと、俺は見覚えのある街並みに居た。
『ここは……』
俺の目の前にあるのは紛れもなく美宇の家だった。
今更何が出来る訳でもないけど俺は扉をノックしてみる。
『うわっ!!』
けれど俺の腕は扉を擦り抜け、そのまま身体ごと家の中に入ってしまった。
そうか、今の俺は幽霊って奴なのか……
気を取り直し廊下をゆっくりと移動していると、台所からおじさんとおばさんの話し声が聞こえてくる。
「あなた……あなたからも美宇に言って下さいな。あれから三日も経ったのに、部屋から出ないし食事もほとんど食べていないんですよ?」
「わかっている。だがしかし、痛々しくって見ちゃおれんのだ。いつも夜中に啜り泣きが聞こえてくるのは母さんも知っているだろう?」
おばさんは頷き、そこで二人は深い溜息を付いた。
「しかし、克樹くんの父親は凄い人だな母さん。同じ子を持つ親として、とても真似など出来んよ。」
「ええ……覚えていますわあの言葉ですね?」
「ああ、恨み事の一つでも言われると覚悟していた。なのに、うちの克樹を褒めてやって下さい。美宇さんを守ったのですから、大切な人を守る盾となれたのですから……だったな。」
その言葉に俺は胸が痛んだ。そして今更ながらに自分が死んだのだと強く感じていた。
「でも、あの娘は今も自分を責めているのよ?自分のせいで克樹くんが死んだんだって……あなた、私達はどうしたらいいの?」
美宇が自分を責めている?そんなまさか……
「わからん。私達に出来るのは、美宇が笑顔を再び取り戻してくれる事を祈るしかあるまい……」
美宇…美宇…違うんだ。
自分を責めたりしないでくれ……
心の中で呟きながら、俺は美宇の部屋へと急いだ。
『美宇!!』
ドアノブに手を掛けた恰好のまま、俺は美宇の部屋の中へとドアを擦り抜けた。いつもと変わらない部屋、そして俺の目の前には美宇がいる。だけど……
目にした光景に俺の息が止まった。
ベッドに寄り掛かる様に床に座ったままの美宇の髪の毛は千々に乱れ、眼差しは虚ろに宙を見つめている。そしてあれから三日しか経っていない筈なのに信じられない程やつれた頬……
お前、寝てないのか?
そう誰もが思う程にはっきりと目の下に隈が出来ていた。
「ミャ?ン……」
そんな美宇に甘えるみたいに子猫が頭を擦り寄せている。
『ポチ!!お前、美宇のところに居たのか!?』
美宇に擦り寄る『ポチ』と言う名の子猫。あれは、二ヵ月ぐらい前に俺と美宇が拾った捨て猫だった。
そぼ降る雨の中、段ボールの中で小さな身体を震わせて、そいつは懸命に鳴いていた。親猫から離れた不安、飼い主に棄てられた孤独を訴える様に、まるで自分はここに居るんだと叫ぶみたいに鳴いていた。
『ねぇ克樹……あんなにちっちゃいのに捨てられてるなんて可哀相……』
『ああ……、でもな美宇。可哀相ってだけで拾う訳にはいかないぜ?どんなコトでも覚悟が必要なんだ。もし拾うなら、最後まで面倒見るって覚悟はあるのか?』
冷たい言い方かもしれない。だけど一時の感情で飼う訳にはいかないんだ。
『でも……』
子猫に近付き抱き上げようとする美宇の腕を引き、俺は静かに首を振った。けれど、美宇は俺の手を振りほどき子猫を抱き抱えると目にいっぱいの涙を浮かべて俺を見た。
採点