彼方から……
彼方から……
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「なんでこの服が想い出の品だって知ってるの?そうよ、冷静に考えればおかしいコトだらけだわ。どうしてあたしがここにいるってわかったの?なんでこんなにタイミング良く現れるのよ!」
「ふっ、大分冷静になってきたみたいだな。だけど俺が誰だとか、どうしてここにとか、そんなコトはどうでもいい。俺の目的はただひとつ、君を自殺させない事だ。」
「……自殺……」
………パサッ………
何かを思い出した様に、ゆらりと立ち上がった美宇の身体から毛布が落ちる。そして暖炉の脇で乾かしていた服を手にすると着替え始めた。
「何をする気だ?」
「あなたが誰なのかわからないし、知らなくていい。ただ、あたしは克樹のとこに行くの。お願いだから邪魔しないで。」
「助かった命をまた捨てる気か?」
服を着終えた美宇は俺の方を向いてうっすらと笑う。
「本当なら、助けてくれてありがとうって言うところかもしれないけど、命を救うコトが必ずしもその人を助けるとは限らないわ。あなたにはわからないでしょうけどね……」
「じゃあ、やってみればいい。俺は何度でも助けるし、邪魔してやる。」
「いい加減にして!!他人のあなたにはわからないコトなのよ!!」
こぶしで壁を打ち付けると美宇は俺を真っ正面から睨んだ。
他人……か。お前から見ればそうなんだろうな。
「じゃ、最後に答えてくれ。克樹はお前に死んでくれって、本当に言ったんだな?」
「………」
俺の言葉に美宇の視線は力を失い宙を彷徨う。
「答えろよ。もし本当に言ったのなら、俺はもう邪魔しない……好きにすればいい。」
俺がそう言うと、少しの間を開けた後に美宇は囁くような小声で答えた。
「……言った…わ…」
「嘘だ!!」
俺の言葉に美宇は目を見開き、まるで小さな子供が嫌々をするみたいに首を振る。
「だって、克樹は答えてくれたんだもん。あたしを待ってるって……」
「違う!!あの時、蛍光灯が割れたのは拒否の意思表示だったんだ!」
「なんでそれを!?だって、あの時部屋にいたのはあたしとポチしか……」
「本当にそうか?ポチは気付いてたみたいだったけどな…」
「そ…んな……まさか、あなたは……」
「ミャ?ン」
俺の傍にいたポチは目を覚まして一声鳴くとゴロゴロと喉を鳴らして俺に頭を擦りつける。
「なんで?なんでポチがここにいるの?だってポチは……」
「あの人は、すでに俺が誰だか知っている……だから俺にポチを預けてくれたんだ。その毛布に見覚えないか?誕生日にお前が選んでくれた奴だぜ?」
美宇はよろめく様にふらふらと歩いて毛布を拾うと、じっと見ていた。やがて何かに気付いたのか、その顔は驚きの表情へと変わっていく。
「あなたは……じゃあ、あなたはやっぱり……克樹…なの?」
「ああ、姿は変わっちまってるけどな。」
美宇の言葉に俺はそう言って頷いた。とうとう禁断の台詞を口にした俺を突如、さっきとは較べものにならないぐらいの脱力感が襲う。
まだだ!!頼む、もう少しだけ時間をくれ!!
俺の想いを伝える時間をくれ……
「う、嘘よ。信じないわ、あなたは克樹じゃない!!克樹がここにいる筈ない、だって克樹は…!!」
そこまで言いかけて美宇は慌てて口を塞いだ。それを見ながら俺は肩を竦めて小さく笑う。
「言ってくれるぜ。どっかの誰かさんが馬鹿な勘違いするから、ムリヤリ条件付きで戻ってきたんだ……。だけど俺の身体はもう無いしな。もっとも、あったところで死んだ人間がうろつく訳にもいかないし、まぁこれは仮染めの身体って奴さ。」
「それじゃ……本当に……克樹…なのね?」
「せっかく根性出して戻ってきたんだぜ?お帰りなさいぐらい言ってみろよ美宇。」
「か…つき……克樹……克樹ぃ!!…あたしが……あたしのせいで!…ごめんなさい!ごめんなさい克樹!」
駆け寄って俺の胸に飛び込むと美宇は大きな声で泣き始めた。そっとその頭に手を添えて俺は優しく撫でる。
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