彼方から……
彼方から……
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アウトドアが好きな俺は、つねに最小限の装備を車に積んでいる。それがこんな形で役に立つとは思っても見なかった。
「やったぜ!そのまんま残ってやがった。」
着火剤に毛布、それと固形燃料に非常食……
ナップサックに詰め込んで毛布を小脇に抱えると、俺はトランクを閉めた。
「ミャー、ミャー……」
「おっと、お前のコトを忘れてた。ポチ、美宇は無事だったぞ。お前も来い。」
ポチを抱えようと手を伸ばした時、座席の上に携帯がある事に俺は気付く。
「ポチ、少しだけ待っててくれ。」
携帯を手に取ると少し躊躇ってから俺は番号を押した。数回の呼出し音の後に電話は繋がる。
「只野です、美宇を見つけました……ええ、無事です。だから、騒ぎを大きくしない様にしてもらえますか?」
俺は母さんに美宇の無事と今いる場所を伝えた。
「美宇にわかってもらう為には、すべて話さなきゃならない……だから母さんと話すのは、きっとこれが最期だと思うんだ。母さん、頼みがある……」
俺は電話を終えてポチを連れてログハウスに戻った。着火剤で手早く火を起こすと室内はみるみるうちに暖かくなっていく。濡れた服を脱がせて毛布を掛けると美宇の頬は次第に赤みがさしていった。
「もう大丈夫だな……」
小さな溜息を付いて俺が乱れた髪をそっと掻き上げると美宇は軽くむずがった。
「美宇……ごめんな。お前をこんなに苦しめちまって。本当にごめんな……」
俺の瞳からとめどなく涙が溢れた。そして美宇が目を覚ましたらすべてを告げよう……
俺はそう決心した。美宇が目を覚ますまでのこの時間が最期に二人でいられる時……
このまま時間が止まって欲しいと心の底から思う。
例え語り合う事など出来ないとしても、この寝顔を永遠に見つめていたいと真剣に願った。
俺に残された時間は後……いや、やめよう。次に美宇が目を覚ました時が……
すべてを告げた時が、俺の時間の終わりなんだから……
……パチ…パチ……
静かな室内に薪の爆ぜる音が響く。
「………ん………」
俺の背後で小さな呻き声が聞こえた。
「気がついたか?」
火掻き棒で暖炉の薪を掻き起こしながら俺は言う。
「……ここは?……」
「ログハウスの中だ。」
俺は振り向かずに答えた。
「あたし、生きてるの?」
「…ああ……」
「どうして?」
「俺が助けたからだ。」
それでも俺は振り向かない。いや、正確には振り向けない……
「なんで?」
「死なせたくないからさ。」
「どうして邪魔するの?」
「邪魔?…」
「そうよ……あたしは克樹のところに行くの……」
「そんな事しても克樹は喜ばない……俺はそう言った筈だ。」
そこで俺は初めて振り返る。俺の顔を見た美宇は驚きを隠せないといった表情だった。
「あ、あなたは克樹のお墓で会った人……一体、あなたは誰なの?」
「俺が誰かなんてどうでもいい。馬鹿なコトは考えるな。」
「克樹があたしを待ってるのよ?あたし、行かなくちゃ……」
「克樹は君を待ってなんかいない。冷静になれ、そんなコトして克樹が喜ぶとでも思っているのか?」
俺は再び暖炉の方を向くと薪を焼べる。
「なによ!!知りもしないで勝手なコト言わないで!!……きゃっ!あたし、なんで裸なの?」
立ち上がって俺に文句を言おうとした美宇は、自分が裸である事に気付いたのか慌てて毛布を手繰り寄せた。
「慌てるな、身体を暖める為に脱がせただけでそこに干してある。大事な想い出の服だろ?湖水で汚れちまったから、帰ったらクリーニングにでも出すといい。」
頃合いよくお湯が沸き、俺はマグカップにココアを作ると美宇の前に置いた。
「ココアだ。飲めよ、暖まるぞ。」
「あなた…何者なの?」
毛布を巻き付けたまま、美宇は後ずさる。その瞳には微かな恐怖の色が浮かんでいた。
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