彼方から……
彼方から……
どろんぱ


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電車を降りたあたしはタクシーを乗り継ぎ、ここまで来た。

湖畔が一望出来るロケーションが人気のキャンプ場は、前もって予約を入れておかないとシーズン中は場所が取れない程だ。だけどシーズン中は賑わうここも、今はひっそりとしている。

砂利を踏み締めながら、あたしは想い出を辿る様に散策してみる。

石が積まれた簡単な釜戸。あたしと克樹が初めて出会った場所……

『馬鹿!美宇、触っちゃダメだ!』
『どうして?火はもう消えてるよ?』
『石はな、すぐには冷めないんだ。火傷しちまうぞ?』
『ふーん、そうなんだ。』

釜戸にそっと触れてみても指先に伝わるのは冷え切った感触だけ……

キャンプ場を離れて、あたしは湖畔のすぐ側のベンチに座った。二年目のキャンプの時に克樹と並んで座ったベンチ……

『克樹、目をつぶって……』
『なんでだ?』
『いいから早く。』

目を閉じた克樹にあたしはそっと唇を重ねた。

『み、美宇……』
『えへへ、知り合ってちょうど一年のお祝いだよ?』
『バカ……いきなりなんてズルいぞ。』
『だって、克樹がしてくれるの待ってたら、キャンプが終わっちゃうもん。』
『うっ……そりゃそうかもしれないけど……』

二人で並んで夕日が沈むのを言葉を交わすコトなく、ぼんやりと見つめていたよね……

『なぁ、美宇。』
『ん?何?』
『ずっと一緒にいような。これからも……』
『うん……』


克樹の嘘つき……

ずっと一緒にいようって言ったじゃない。

身体も心も寒いよ……

あなたがいないと凍えそうだよ……

湖畔を渡る風があたしの髪を掻き乱していく。

「克樹…、今行くからね。そしたらまた、あたしを抱き締めてね……」

あたしは立ち上がり、ゆっくり湖畔へと歩いてゆく。足先に伝わる水は身を切る程に冷たい。だけど克樹がきっと暖めてくれるわ。

くるぶしを越えた水面は腰の辺りまで上がって来る。

もうすぐあなたに逢えるんだよね……

水の抵抗が歩みを妨げる。まるで生命が死を拒むみたいに……

胸元を越えて水面は肩口まで上がっていく。だけど、息が続く限り前に進もう。そこですべてを手放せば

あなたに……

逢えるから……

あたしの身体は水底に沈み、そこで意識は途切れた。



「もうすぐ着くぞ!美宇……無事でいろ!!」

キャンプ場の駐車場に乱暴に車を停めると俺は携帯を取り出した。多分、無駄だろう……。わかっていながらも美宇の番号を押してみる。

《……お掛けになった電話番号は電波の届かない……》

「くそっ!!やっぱダメか。ポチ、お前はそこにいろ!」

車の中に携帯を投げ入れ、俺は走り出す。

ここは美宇と俺が初めて出会った場所……

母さんの話を聞いて、美宇が来るのはここしかないって俺は思っていた。

「どこだ!どこにいるんだ美宇ーっ!!」

キャンプ場を見回しても辺りに人の気配は無い。

慌てるな!よく考えろ!!想い出のここを死に場所に選んだなら、どこに行く?一番想い出に残っている場所はどこだ?

お互いの気持ちを確かめあった場所……

みんなに冷やかされながらも、二人っきりになった場所……

「ベンチ…そうか!湖だ!」

湖畔に向けて俺は全力で走る。あのベンチのある場所へ……

「…ハァッ、ハァッ…ハァッ……」

荒い呼吸をしながらベンチの背もたれに手を掛けて、俺は湖畔を見渡した。

湖面はひっそりと静まり、物音ひとつ聞こえて来ないけれど、微かな気配すら見落とさない様に俺は五感に全神経を集中させる。


………パシャッ………


湖面で微かな音がした。

そして俺の視界に映る赤いモノ……


あれは!!

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