彼方から……
彼方から……
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『どれどれ……』
手早く火を起こすあなたを見て、まるで魔法使いみたいだって思った。
『俺さ、勉強はダメだけど、こういうコトは得意なんだ。あはは』
屈託の無いあなたの笑顔は、そのまま太陽みたいだった。
『あの人、三年生の渡瀬って言う人らしいよ。』
『ふーん……』
それ以来、あなたを目で追う回数がどんどん増えていく。名前が克樹ってコトもわかった。少しずつあなたのコトを知るたびに、あなたの存在はあたしの中で大きくなっていく。
ふふっ、凄くお人よしだってコトもわかったのよ?
あれは学祭の準備をしていた時だったね。
『克樹ぃ…俺、今日この後バイトがあってさ……』
『ああ、俺がやっとくよ。』
『渡瀬先輩。私、門限があって……』
『おお、俺に任せとけ。』
あんなに引き受けちゃって平気なのかな?側で見ていてあたしは気が気じゃなかった。自分の仕事だってあるのに……
あたしも門限があるから遅くはなれない。だから、せめて朝一番で来ようと思った。だって終わらないよ、あんなに沢山……
そんなあたしの気も知らないで、あなたは鼻歌混じりに作業を続けてた。
翌日、何とか早起きして大学に来たあたしが見たのは、全ての作業を終えて机をベッドがわりに並べて寝ているあなたの姿だった。
なんて凄い人なんだろう。不屈の精神と責任感。この出来事であなたに傾いていく気持ちは急加速していった。
『え?彼女?』
『はい。渡瀬先輩って彼女いるんですか?』
加速する気持ちは止められない。あたしは思い切ってあなたに聞いたよね。
『柚木ちゃん、辛いコト聞くなよ。俺みたいなアウトドアしか能が無い奴を好きだなんて物好きがいると思うかい?』
『います!!ここにいます!』
『はぇ?ゆ、柚木ちゃん?』
『あたし、渡瀬先輩の彼女になりたいです!!ダメですか?』
これも若さって奴?あたしは思い出し笑いをしてた。
だって克樹ってば目を白黒させて、顔が真っ赤だったんだもん。
『ダ、ダメじゃないよ、嬉しいよ。でもさ、俺なんかのどこがいい訳?頭悪いしさ、ボケッとしてるし…。柚木ちゃんぐらい可愛かったら、いくらでも……』
『あたしは渡瀬先輩がいいんです!あたし、先輩の根性があるとこが好きなんです。』
『こ、根性?根性ねぇ……。よし、決めた!!改めてこちらこそお願いします、美宇ちゃん。』
そう言って照れながら、あの太陽みたいな笑顔を見せてくれた。
克樹は知らないだろうけど、あたし自分の名前が嫌いだったの。だけど、あなたに呼ばれる様になって自分の名前が大好きになったんだよ?
美宇……
美宇サン?
美?宇♪
なぁ、美宇……
『美宇っっー!!』
今でも耳に残る、克樹の最期の言葉にあたしは耳を塞ぐ。
あの時あなたに突き飛ばされて、あたしは地面に倒れた。
何すんのよ!克樹!
そう言おうとして振り返ったあたしが見たのは……
すべてがスローモーションだった。
トラックに跳ねられて、克樹の身体は宙に浮いていた。糸が切れた操り人形みたいに不自然に曲がる手足。地面を何度も転がって、あなたの動きは止まった。
雲一つ無い天気なのに、あなたの周りには水溜まりが出来ていく……
朱い朱い、水溜まりが……
夢なら醒めてと何度も祈った。だけど、車の中であなたの手は冷たくなっていく……
あたしを驚かそうとしてるんでしょ?
いつもみたいに起きてよ。
いつもみたいに笑ってよ。
だけど…………
窓の外の景色が滲んでよく見えない。あたしは慌てて涙を拭った。
泣かないって決めたんだ。笑顔で克樹に逢うって決めたんだから……
だけど……
一人じゃ淋しいよ……
早く克樹に逢いたいよ……
自分で自分を抱き締める指先に知らず知らずに力がこもっていた。
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