彼方から……
彼方から……
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「おかしいな、今日は休みじゃない筈だが……」
普段の出勤時間を過ぎたのに、美宇が出て来ない。更に1時間が過ぎても美宇が家から出て来る気配は無い。
ゾクリ……
妙な不安に神経が逆立つ。思うよりも早く俺の指は美宇の家の番号を押していた。
『はい、柚木でございます。』
電話越しに久しぶりに聞く美宇の母親の声。動揺を抑え、努めて冷静に俺は口を開いた。
「恐れ入ります。〇〇の鈴木と申しますが、柚木美宇さんはご在宅でしょうか?」
無論、口から出まかせの苗字だけどどの会社にも一人ぐらいはいるだろう。すると……
『すみません。娘は今朝から旅行に出掛けてまして、三日程で戻ると言っておりましたが……』
そんな答えが返って来た。俺の予感は最悪な形で的中してしまう。
「大変失礼致しました。また日を改めますので……では失礼します。」
美宇の母親の声が遠くに聞こえていたけれど、何とか普通に電話を切る事ができた。だけど、もう一刻の猶予もない。
急いでマンションを飛び出すと、俺は手近なタクシーを拾って行き先を告げた。車を降りて石段を駆け上がり、境内を走り抜けて俺が向かう場所、それは俺の墓だった。
「畜生!!間に合わなかったのか……」
墓には真新しい線香が煙りをあげていて、美宇がここを訪れたのは間違いないと告げている。
だが、まだそんなに時間は経っていない筈。わざわざ墓前に最期の挨拶に来るぐらいなら、あいつは間違いなくあそこにも立ち寄る……
そう考えながら、俺は次の目的地へ走り出した。
走りながら俺は自分の迂闊さを呪う。何故、四十九日目と決め付けていたのかと……
美宇は間に合わせると言った筈だったのに。
ピンポーン、ピンポーン
ドアチャイムを押しながら荒い呼吸を必死で俺は整える。
………ガチャ………
「どちら……あら?あなたは只野さん。」
「すみません美宇が!!……いえ、こちらに美宇さんが来ませんでしたか?」
「え、ええ。ついさっき見えたわ。でも、どうしてあなたがそれを?」
やっぱり美宇はここに来ていた。
「何か……行き先について何か言ってなかったですか!?何でもいいんです!!知ってたら教えて下さい!お願いします!!」
俺のただ事ではない様子に母さんの顔も真剣な面持ちになった。
「猫を預かったわ。それと、想い出の場所に行くとか何とか……」
「ポチを!?まさか、そんな……」
行き先に心当たりが出来た。一刻も早く向かわなきゃ!!俺は振り向いて走り出そうとした。
「待って!只野さん。一体何が起きたの?」
「彼女は……美宇は自殺する気です。早く追い掛けなきゃ!!」
俺の言葉に母さんの顔面は蒼白になる。
「馬鹿な事言わないで!どうしてあなたにそれがわかるの?」
「俺にはわかるんです。それを止める為に帰って来たんだから……」
「あなた、何を言ってるの?」
困惑している母さんの後ろから鳴き声が聞こえた。
「ミャーン」
小さな茶と白の子猫は母さんの足元を擦り抜けると、俺の足にじゃれ始める。
「ははっ、お前は俺がわかるんだな、ポチ……」
子猫は嬉しそうに鳴きながら仰向けに寝そべった。静かにしゃがんで、その柔らかなお腹を俺はそっと撫でる。
「あ、あなたは……まさか、あなたは……」
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