LaZoo掲示板
カオス・ストーリー23

?Mysterious childrens? [渡辺麻友の小説]
第1話

その台本に記載された番組名を見て、麻友は一段とテンションを高くしてしまった。思わず満面な笑みで「うわぁ・・!」と声をこぼしてしまったため、隣にいたスタッフに麻友は睨まれた。
麻友は何故そこまで番組名を見て感激したのか。それは、その番組名が麻友にとって最高なものであったからだった。

[歌って踊って遊ぼう!麻友お姉ちゃんと楽しくアイドル体験!]

それが番組名だった。

「何?どうした訳?そんなに嬉しそうにして」
台本から全く目を離さずに満面の笑みをこぼしている麻友があまりにも変すぎると思ったのか、隣に座っていた女子スタッフが麻友にそう言った。

「え?だってほら、見てくださいよ」
麻友は元気のありすぎる声を発しながら、その台本を手から離さずにスタッフに見せた。
「出演者は私と小学三年生の子供たちなんですってよ!」

「だから?何?」
「そんな小さい子たちと遊んだり出来るんですよ!しかも歌ったりして!分かりますか?」
「いや分かんないけど」

「小さくて可愛い子供たちと遊ぶでんすよ!分かりますよね!」
「だから全然分からないって」
「そうですか。やっぱり?」

麻友は一瞬口を尖らせた。しかしすぐにまた笑顔になった。
「実は私、小さくて可愛い子供たちに歌とか踊りを教えてあげるっていうのが、ずっと前からの夢だったんですよぉ!」
「ふうん。それで、歌とか踊りとか教えるのが叶うから嬉しいって事?」
「そうなんです!けど、それだけじゃないんですよ!ほらここ見てください、ここ!」
麻友は台本の[番組の主な内容]という項目を指で指した。

「ここに、[憧れのアイドル麻友ちゃんにたくさんある聞きたい事を質問しよう!そして、麻友ちゃんのここまでこれた苦労の話を聞いてみよう!]って書いてあるんですよ。私、そうやって子供たちに勉強みたいのを教えるのが、大の夢だったんですよ!」
「じゃあ、そのお仕事は麻友ちゃんにとって最高の仕事ってことね」
「そうなんですよ!もう最高すぎます!やぴゃあ!」

麻友はテンションを一向に下げず楽屋で興奮していた。スタッフは呆れてあまり喋っていなかったが、麻友の言葉には応対していた。

「いやーほんと最高!楽しみ!この仕事っていつやるんだろう?」
麻友は台本を手に取り、収録の日時を調べた。
「えっとー・・あ、七月八日だ。へー・・てあれ!?今日じゃん!」
「聞いてなかったの?言ったじゃん、今日の昼頃からって、打ち合わせで」
「え?そうでしたか。日時は聞いてませんでしたぁ」

麻友は楽屋の時計を見る。時刻は午前七時だ。
「てことは、あと何時間後にこの仕事がやれるって事ですか!?」
麻友の表情は、これでもかと言えるほどの喜びを感じる笑みで、スタッフは思わず少し引いた。
「そう、だよ・・うん・・・」
うわぁは!という奇声を発して、麻友はイスから立ち上がった。そして、何故か大きく腕を振り回し始めた。
「た、た、楽しみぃ!!」七月八日 時刻は一時十二分。

「えっと・・・」
麻友はスタッフから楽屋でもらった仕事場の場所が書かれたメモを手に、高層ビルが並ぶ街を歩いていた。
「どこなのかなー・・・あっ」
麻友は小さめで茶色いビルを発見し、立ち止まった。
「たぶんこれだよねー・・」
麻友はメモをもう一度読んだ。
[五階建てだから他のビルと比べると少し小さくて、茶色い]
「じゃあこれに間違いない!」
麻友はそのビルの前に立ち、眺めてみた。
メモに書いてある通りビルは小さかった。
麻友はそのビルに入ろうとした。その時、麻友は思い出した。
「そういえば、入り方が書いてあったような・・・」
メモに再び目を移す。
[ビルに入る時は、正面の左にある小さな通りから裏に行き、裏のドアから入ってください。正面のドアからは入らないでください。子供たちが歩いている場合がありますので]
「へー、通りか、・・あ、ここだ」
麻友は小さな通りを見つけ、向かった。子供たちが現れた時にバレないよう少し顔を隠した。
裏への通りは、草がまあまあ生えていて通りにくく麻友は嫌な気持ちになった。買ったばかりのスニーカーが、汚れてしまったからだ。

少し時間をかけて裏へ着くと、草木の生えた小さすぎる庭があった。庭の周りは高速ビルが建っていたため、とてもそっけなく見えた。
裏へのドアはどこだろう、と麻友は探すと、木で出来ていると思われる汚いドアが見つかった。そのドアには、[裏への入り口です]とペンで書かれた白い紙が貼ってあり、ヒラヒラと揺れていた。

「あ、ここから入るんだ」
と麻友は笑みをこぼしながらドアに向かった。
綺麗な白い手で、麻友はドアのノブを握った。軽く握っただけなのにノブはミシリという音を立てた。しかし異常はないようだったのでゆっくりと開けてみた。

キキーといってドアは開いた。麻友は迷わず、開けた隙間に顔を入れ、中を覗いた。
中は、極めて普通だった。
茶色い壁紙を貼られ、床に多少の本が重なっていて、本棚と冷蔵庫と誰も座っていない机が一つずつある。

しかし、人がいない。

麻友は再度メモに目を向けた。
[中には子供たちのクラブを作った、クラブ長の長崎さんがいます。机に座っているでしょうから、声を掛けてからすぐに挨拶をしてくださいね]
麻友は机に目を移す。誰も座っていない。麻友は体の全てを部屋の中に入れた。そして辺りをさっと見回し、「誰かいませんか?」と小声で言った。応答はない。

とその時、カチャリという小さすぎる音がした。たぶん耳の良い麻友だから聞こえたのだろう、普通ならあのような音は聞こえるはずがない。

麻友は誰かいるのだろうかと思い、再度辺りを見回した。すると、ドタッという床を大きく蹴るような大きな音が聞こえ、麻友は驚いて体をビクリとさせた。そのあとすぐに本棚の横のドアがそっと開き始めた。麻友は一瞬怖くなり、思わず一歩下がってしまった。

「やーやー、あ、は、どうも。どうも」
ドアから現れたのは、太り太った中年男性だった。かなり汗をかいている。
「あ、あなたはもしかして、えー・・渡辺さんですか?」

「はい、そうです。仕事で来たんです」
「あそうでしたか。すみません部屋にいなくて。ちょっと色々ありやして、へっ」
男は大量の汗を流しながら苦笑した。その笑顔はとても見やすいとは言えないものだった。

「ひゃあーでも今日は暑いですなー、ひー・・」
男は短く太い足で机に向かい、うちわを一つ手に取り仰ぎながら麻友のほうをチラリと見た。そして、しまったという顔をして「あっ」と言い、机からもう一つうちわを取り麻友に差し出した。

「暑いですよね。渡辺さんも、どうぞ」
「あいや・・私は・良いです」
麻友は顔を引きつらせた。しかしそれを隠そうと必死で笑顔になった。
「いいなー若いのは、暑そうじゃなさそうですもんね。汗も少しもかいてないし」
男は机に一つのうちわを置き、窓に向かった。
「暑い暑い、何で閉まってんだ・・開けないと・」
「あの・・!」

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