命の樹

天翔

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カオス・ストーリー23
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大学入ってから、というよりもここ何年も他人と3分以上話をしたことがない。
なぜなら、俺にとって他人と話すことなんて必要のないのだから…


俺は講義が終わると決まって行く場所がある。
大学の敷地内の一番奥、高台に位置した見晴らしの良い場所に建つ『書庫』と呼ばれているその場所は、その名に劣らない位の本が保管されており、小説の数だけでも圧倒される程だ。

俗に図書館と呼ばれるその場所の入口から一番遠い部屋の隅。
そこが俺の特等席。
…といっても、いつ行っても俺の他に3人以上いたところを見た事がないから、どこに座っても自由な訳だが。
何故か俺はあの場所が気に入っている。

一日中いても飽きない位だが、さすがに毎日通っていると、少し刺激が欲しくなる時もある。

だから、気分を変える為に昼食の時だけは学生達が多く集まる広場のベンチで昼食を摂る。
もちろん、一人で。

メニューはいつも決まってコンビニの弁当かオニギリ、それとコーヒー牛乳。

混雑時はただ煩いだけの広場も、少し時間をずらすだけで居心地の良い場所になる。
昼食を摂りながら周りを見ると一人でいるのは俺位で、他は4・5人でグループになってワイワイと楽しそうに話ながら昼食を摂っている。

そんな奴らを見て、正直うらやましかった時期もあったが、今ではそんな気すら起きなくなっていた。


今日も食事を済ませ、一息吐く。
俺の目の前では相変わらず賑やかな光景が広がっている。
風景だけ見れば、いつまでもいれるが、さすがにそうはいかないのが現実で、いつも10分もしないうちに再び書庫に戻るのが俺の定番だ。


午後の講義が終わると、空はうっすらオレンジ色に変わり、気持ちのいい風が吹き始める。
天気のいい日は書庫にも柔らかな光が射し、いつもとは違った雰囲気になり、数少ない俺の楽しみの一つとなっている。


でも、最近もう一つ俺が楽しみにしていることがある。
大学から歩いて20分、住宅街を抜けた高台に開けた広場があり、天気のいい日には小さな子供連れの親子が集まるその場所のはずれに一本の大きな木がある。
その木の下で本を読むのが最近の楽しみになっている。

書庫とは違った落ち着いた雰囲気のその場所は俺だけの秘密の特等席。
もとい逃げ場となっていた。


そして、この頃はまだ、俺が再び人と関わることがあるなんて考えもしなかった…

今考えると、俺が人と関わりを持たなくなった頃から既に俺の運命は決まっていたのかも知れない。




それは、まだ少し肌寒さが残る大学二年の春のことだった。

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