罪と罰
小鳩
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最悪の金曜日だった。正樹に貸したCDを無くされたのはまあ良いとして──
今こうして向き合ってる紗都のふくれっ面は亨にはまったく理解出来ない。
喧嘩をした訳ではない…はずだ。むしろ今朝までは下らない話をして今度のデートの約束までしているのだ。それがバイトの後に急に呼び出され、この状態である。
うつむき加減にそっと様子を伺う。
つい一昨日変えたというキャラメルベージュとかいう髪の色が紗都に良く似合っている。
肩まで伸びた繊細な絹の髪に、指を絡めてキスをする姿を想像してみる。
グラス2つとポテトの皿が辛うじて載るくらいの小さなテーブルの下で、亨の下半身は妄想に正直に反応していた。
妄想の中の紗都が瞳をトロンとさせ、ピンクに色づいた唇で『トオル…』と囁いている。
(たまんねぇな、オイ…)
出来ることなら今すぐホテルにでも行って、紗都をたっぷりイジメてやりたい。
知り尽くした紗都の性感帯を責め立て、亨の妄想は激しくなる一方である。
「聞いてるの?トオル」
「え、あぁ、うん?」
すぐに現実に引き戻されると、紗都が相変わらずのふくれっ面だ。怒った顔も可愛い、なんて言える雰囲気ではなさそうだ。
「だからね、部活の合宿が28日にかかってるんだってば」
「あぁ、そうなん…て、えっ!?」
ボンヤリと聞いていた亨はそこで初めて理解した。
7月28日は付き合って1年の記念日だった。夏休みだし、ふたりで旅行に行こうか、とあれこれ計画を立てている所だった。
「それ、なんともならんの?」
「無理…文化祭までに仕上げる作品だし…」
「美術部で合宿なんて聞いてないって…」
なんだ、俺のせいじゃないじゃん──。
ガックリしたのと、怒りの矛先が自分に向けられていたのではないという安堵と半々だった。
「ごめんね…楽しみにしてたのに」
「紗都が謝るコトじゃないだろ」
「うん、でも…」
ごめんね、と紗都がもう一度謝った。
先程のふくれっ面とは打って変わって今にも泣きそうな顔だ。テーブルに載せて組み合されている両手を、亨は自分の手で優しく覆った。
「まだ予約なんかもしてなかったしさ、日にちをずらしてまた考えよや。な?」
「トオル…」
「紗都の怒った顔もなかなか可愛いけど、俺はやっぱり笑ってる方が好きだなぁ?」
「なに…言ってんの」
そこでやっと、紗都がクスリと笑った。
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