死に沈むシニシズム
水瀬
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自殺のあった次の日は休みとなったが、一日空けて学校は再開された。
教室は案の定というか、やっぱり自殺の話題で持ちきりだった。
近年稀に見る自殺ブーム――そんなフレーズが相応しいくらいに日本中で学生の自殺が騒がれている。
ついにウチの学校でも自殺者が出たのか、という感じなんだろう。ウチの学校はよくある生徒の自主性を尊重しようという自由な校風が売りの中堅高校で、特にこれといって目立ったところもなかった。
だから、これは――誰かが自殺することは――何かのイベントと大差はない。
誰もが自殺した子の話をするが、本気で悲しんだり嘆いたりする人はいったい何人いるんだろう。関係のない他のクラスの生徒が、どうして悲しんだり嘆いたり出来るんだろう。
そう考えてみると――みんなの反応は『普通』だった。
朝私が教室に来てみると、まず何人ものクラスメイトが窓から顔を出して下を――つまりは中庭を見ていた。そこには誰かが落下してきた痕跡など残ってなくて、下を見下ろしていたクラスメイトは残念がっていた。
中庭と屋上は現在立ち入り禁止になっている。
実況見分やら現場検証は昨日のうちに終わっていたのか、警察関係者の姿は見当たらなかった。もしかしたら学校側がそういったことは終業時間を過ぎてからにして欲しいと言ったからなのかもしれない。
授業が始まっても、ところどころで自殺したのは誰だとか理由はなんなのかとかと話されていた。なにぶん娯楽の少ない学校だから、こういったことがあれば最低数日くらいは話題のネタが尽きないだろう。
私には会話をする友達はいないけど、自然とその声が聞こえてきて、知りたくもないのに自殺の情報が入ってくる。耳を塞ぎたかったが、そんな変な行動をとったところを誰かに見られでもしたら、それを口実にして『何か』されることは目に見えているので、自己防衛の意味も含めて出来なかった。理由など無くてもされるときはされるんだけどね。
どうやら、自殺したのは1年5組の葛城スミレという子らしい。
性格は温厚で、評判もそれほど悪くないようだ。彼女はクラスの中でもあまり目立った方ではなく、どちらかといえば一歩引いたところにいる印象が強い。しかし付き合いはそれほど悪くなく、誘われれば大概は付き合い、友達も少ない方じゃない。図書委員をしていて、休み時間は当番でもないのに図書室に入り浸るくらい本が好きだったみたい。
――おかしい。
私は違和感みたいな感覚を覚えた。
聞いた限りでは、こういってはなんだが自殺をするような子には思えなかったんだ。
よくテレビでは『どうしてあの子が』とか『あんな優しい子がどうして』とか『するようには見えなかった』とか言われているが、私の感じた違和もそれに近いのかもしれない。
どうせ私の聞いている情報は噂話の類でしかない。それがどれだけ不確かで曖昧なのかは今更追求するまでもないと思う。噂話なんて結局は人を通じる情報だ。脚色されない方がおかしい。
だけど――それでも。
なんだろう。
この胸のモヤモヤは……?
彼女の情報は尚も私に入ってくる。
そのクラスメイトの彼は中学校が彼女と一緒だったらしい。
彼は語る。小さな声で。
生々しい、話。
中学時代の、彼女の話。
彼女は――……。
……――やめて。もうやめて。
それ以上何も言わないで何も喋らないで何も話さないで。
口を閉ざしてもう開かないで黙って。
お願いもうそれ以上は――。
「――自殺未遂、らしいぜ」
彼女は――葛城スミレは――中学時代に、自殺、しようと、していた。
理由は、イジメ。
胃が、歪むように、痛かった。
いつもの、フラッシュバック。
死を身近に感じて、死ねなかった、そのあともイジメ続けられたけれどもう怖くて死ねなかった、どんなに痛くてもどんなに辛くてもどんなに苦しくても、死を選べなかった、気持ちの悪い、私。
気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い――今すぐ全部吐き出したい。気持ちの悪いものを吐き出したい。吐いて楽になりたい。死んで楽になれないのなら、せめて……。
「……先生」
私は立ち上がった。
視線が私を刺す。貫く。
「具合が悪いので、保健室に行ってきます」
ああ、という先生の横を通って私は教室を出た。
ドアの窓から誰かが見ているかもしれないから、見えなくなるまでは平静を装い、あとは早足でトイレへ向かった。
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