がんばらない。でも、あきらめない

伊達屋酔狂

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カオス・ストーリー23
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オレらが病院に着いたあと、皮肉にも雨は小降りになっていた。
朝の光が神々しく雲間から指し込んで、街はいつもの朝を取り戻しつつあった。

サヤは病室でベッドに横たわっていた。透明のビニールで作られたテントの中で、様々な電信機器に囲まれて、呼吸器と点滴やらなにやら色んなチューブに繋がれて眠っていた。
顔は包帯でぐるぐる巻きにされていて、鼻から下だけが表面に出ている。ほっぺと唇がぼってりと異様に膨らんでいて、これがとてもサヤ本人だなんて信じられなかった。

傍らでお母さんが、泣き腫らした目で娘の安否を見つめる。サヤんちは母子家庭で兄弟もなく、お母さんだけがただひとりの家族なのだ。
お母さんはオレらに気づくと、自分の座っていた椅子をすすめてくれた。が、オレらは立ちすくんだまま動けなかった。
サヤがオレらから離れて、どっか遠くに行ってしまいそうな…そんな妙な感覚に襲われて涙が出そうになる。
「ばっかやろぅ…」
涙声で呟きながら、隣でマッツンが拳を自分の太ももに叩き付けていた。

お母さんがサヤの容体を話してくれた。
命には別状はないが、頭を強く打ち脊髄もやられてしまったと。ベッドから起き上がれたとしても、障害が残り二度とは立って歩けないだろう…と。
そう言うとお母さんは、小さく鳴咽して涙をこぼした。

オレとマッツンは午前中、病院の待合所の長椅子にへたり込み、ただボォーっと放心していた。
なにも言葉が出なかった。
朝の大雨が嘘のように、やわらかな太陽の光が大きな窓を通して、暖かい日溜まりを作っている。

春はもうすぐそこまできていた。





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