ふしぎなはなし*其ノ壱 【天よりきたるもの】
伊達屋酔狂
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寛政十一年(1799年)十月十四日。
この日の大坂地方は天気快晴で風もなく、おだやかな小春日和であった。
抜けるような秋空はどこまでも青く澄みわたり、わずかな雲さえも見えない。
気持ちの良さにふと天を見やると、なにかがフワフワと飛んでいる。
目を凝らすと、白くて丸い綿毛のようなものに、細い銀色の糸のようなものがついていて、上空にふわりと浮かんでいる。
やがてそいつはあとからあとから数を増やし、大群となり大坂の空を飛行していった。
地面に落ちたものを拾ってみると、クモの糸が丸くくるまったようなもので、大きさは繭ほどのもの。掌の中で揉むとたちまち消えて無くなってしまうという、まことに不思議な物質。
当時、淀川から天王寺にかけて目撃されたこの『得体の知れない物体』は、正午を過ぎた頃には空一面に広がり、八ツ時(午後二時頃)にはすっかり姿を消していた。
さては不可思議な事象。庶民の間ではこの日、この奇譚で持ち切りになった。
さて翌日。淀川周辺には、昨日現れた『奇妙な飛行物体』を一目見ようと、朝早くから多くの民衆でごった返していた。
この日も好天に恵まれ、少しばかり風が強かったものの、昨日と変わらぬ秋晴れの空を見上げ、人々はいまかいまかと心待ちにしていた。
が、しかし、この日は遂に、空にはなにも飛ばなかったという。
当時出版された『梅翁随筆』の作者は、大坂の民衆をパニックに陥れたこの事件について触れ、その中でしきりに首をひねっている。
果たしてこの摩訶不思議な現象は、如何なる起因によるものか。
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