歌舞伎者番外

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カオス・ストーリー23
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第1話:2002年
2002年2月14日、19歳になったばかりの僕はアメフトの練習をしに大学へと向かっていた、大学へ着くと引退した先輩マネージャーと一つ上の先輩が食堂で談笑していた、部活まで時間があるし呼び止められたので僕も会話に混じった、バレンタインデーだということで先輩マネージャーがチョコをくれた、談笑すること数分、突然携帯電話が鳴り・・・

「もしもし・・」
「あぁ、父さんだ、今どこにいるんだ?」
「大学だよ、練習」
「今すぐ病院にこ来れないか!おばあちゃんが危篤なんだ!」
「えっ!わかった、すぐ行く」
「すいません先輩・・・・」
「そういう理由ならしかたない、すぐ行きな」
「失礼します!」

父親の母で数年間糖尿病を患い寝たきりの状態が続いていて僕は時間があればよく自宅や病院まで見舞いに訪れていた、おばあちゃんがよく「お前の顔を見ると元気が出るんだよ」と言ってくれるので僕は早く元気になってほしいと願っていた、大学合格をとても喜んでくれたのもおばあちゃんだった。

埼玉から池袋まで電車で数十分、そこから病院までバスで10分程度、池袋に着いたころでまた携帯電話がなった。

「もしもし!」
「父さんだ!今どこにいるんだ、早く来てくれ!」
「うん!わかった、急ぐよ!」

バスを待って乗っていく時間が無いと思ってタクシーに飛び乗った、ものの数分で着き、急いで病室へと階段を急いだ、階段を上ってすぐ左隣が病室だったのだがどのような状況なのか突然見るのが怖くなりすぐに入らず壁を盾にして顔を少し前へ出し病室の様子を見た、ベットに力なく横たわった祖母の姿を見下ろす父と祖父の姿を見てだいたい状況がわかった・・・、僕はすぐに病室へ入らずトイレに向かい呼吸を整えた・・・。
鏡に映った自分の顔を見て、一呼吸おいてから病室へと向かった。

「・・・・・・!!(おばぁちゃん)」

ベットに横たわった祖母は口を開け硬直していた、すでに顔に生気は見られなかった。

「だから早く来いって言ったのに・・・・・」

既に一切の力なく生気を失い、一生を終えて横たわった祖母を見下ろしながら父は僕にそう言った。
「(僕がもっと早く来れば・・・結末は違っていたかもしれない・・・ごめんなさい・・・おばぁちゃん)」

お正月、新年の挨拶をしに家族でここの病院を訪れたとき、僕と祖母と祖父で一緒に写真を撮ったのだが出来上がって額に入れてお見舞いに顔を出せないとき、写真を見て頑張ってほしいと願って時間ができたら届けようと思って持っていたのだが、まさかこんな形で届ける事になろうとは思ってもいなかった。
ベッドの脇にある小物入れの上に写真を飾った、そこには僕の隣で弱々しくも嬉そうな顔で生気にあふれた顔の祖母が写っていた。
数分後、連絡を受けた母が沈痛な面持ちで病院の階段を登ってきた、実はこの時、夫婦間の間に大きな亀裂が生じていて母は実家にいた、祖母が亡くなる少し前、家庭はかつて無いほどの大きな修羅場だった、僕は修羅場の家庭とアメフトの練習とトレーニングキャプテンや渉外役員としての仕事の板挟みになり精神的にも肉体的にも疲弊しきっていた。
そんな中の祖母の死、悲しみの中一通り葬儀を済ませ、少し気持ちが落ち着いた中、破滅的な出来事が更に襲い掛かった。
母との不仲、その上心の拠り所であった祖母の死、経営する宝石店の不振と次々に襲い掛かる難事件と不幸についに父は我を失い統合失調症といういわゆる精神分裂の病に犯されてしまった。
母と妹は母の実家にいて家には僕と父だけが居たとき、僕は朝から練習があって朝食をとっていたら、突然父が目の前の床に座り込みあぐらをかいて両手を左右に広げた、一体そんな格好をして何の真似かと思っていたら自分は神だと言い出した、事態が飲み込めずジッと神の化身の真似をする父の姿を見ていると両手を広げたまま大きく深呼吸をはじめる、まさか自分の父が目の前で神仏に取って代わろうなどとは夢にも思わなかったので悪い冗談のつもりかと思い、軽く茶化したら怒りだした、何度となく諫めたが効かない、僕は神を信じない性質なので神の真似事をする父を哀れむどころかだんだん腹が立ってきて怒鳴り返した、「じゃぁあんたが神なら一体どんな能力があるんだ!!」と我ながら凄い剣幕で怒鳴った、すると父はチラッと横を見ると真横にあるテレビを指差し、リモコンを使わずに電源を入れてみせるという。
まさかそんな事できるはずが無いと思い父を見ていると例のあぐらに両手を開いて眼を瞑り、深呼吸・・・1分経っても電源はつかない、当たり前である、すると父はテレビ本体のスイッチを押そうとしたので僕はあわてて制止、「出来ないではないか!」と僕が言うと父はついに僕に神の精神論を説き始めた、いい加減頭にきてこうなれば神のふりをやめさせてやろうと部活の先輩に電話をし、家の事情で部活は休みますと伝えた。
だがその後も父の様子は変わらず暴挙は家庭だけに留まらず、家の近くに息子の城が建ったと言い始めた、不動産屋や工務店に妙な話を持ちかけたりと近所にまで出歩く父を見て正直僕は終わったと思った。
母と相談して父は病院に預け、しばらく僕は家に一人で居た、3月6日付けで部活も辞めた、家庭がうまくいかないとすべてが好転しないということを身をもって知った、僕は家に一人っきり、妙なモラトリアムに甘んじながら静かに事が過ぎるのを待ち続けた。

4月初め、父が少し回復を見せた頃、母が自宅に戻ってきた、すると何やら細かい字がたくさん書いてある書類を持ってきた。

「貴方と美穂(妹の名前)の親権は私でいいわね」
「うん・・・」

離婚である・・・

「・・・そんな顔しないの、励ましてほしいのに」

母はいつだって気丈であった、これまで僕の前で弱々しい姿なんてただの一度も見せたことが無い、頭が良く、常に先のことを考えて行動し、そして料理も上手く母性愛豊かであった。
そんな母を僕は尊敬していた、いつも僕のそばにいて勇気付けてくれ、幸せを与えてもらった。
そして父はいつも仕事から帰ってきても疲れた顔一つ見せずに笑顔を振りまいてくれていた。
そんな幸せだった家庭と目の前につきつけられた現実を信じることが出来ず、気がついたら涙を流していた。

「なに泣いているの?今貴方は何を考えているの?」
「・・・・いや・・・・」
「何も話してくれないと私も行動できないでしょう、ほら、泣いていないで話して」
「・・・・・・・・・・」

僕は何も話すことは出来なかった、一度人生をあきらめた高校2年生のとき、自分の歩んできた人生に絶望し、自ら命を絶とうとしたが自分自身の問題であったために踏み止まる事が出来た、だが今回ばかりは根本から崩壊していく様な先のわからない絶望感に毎日針の筵に居るようであった。
5月初旬、退院した父とともに僕は池袋近くに引っ越した、母は妹とともに都内のマンションに住まいを構え修羅場は収まりを見せた。
6月には部活にも復帰し、インターネットの副業も始めた。
その後しばらく平和な時が流れた・・・・・・

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